<質問1> AB型Rhマイナスの頻度は? 輸血用血液は手にはいるか?

 妻の血液型はAB型RHマイナスということに気がつきました。普通の病院で輸血用に置いて あるのでしょうか?血液センターには十分あるのでしょうか?出産を控えており、不安です。日本人ではどのくらいの頻度なのでしょうか?

<回答>

 日本人のRhマイナス(正確には「RhD」マイナス)の頻度は0.5%(200人に1人)と されています。AB型の頻度は10.0%(10人に1人)です。単純計算しますと、AB型RhDマイナスの頻度は0.05%(2000人に1人)ということになりますが、実際上は2500人に1人以下とされています。確かに多い数字ではありませんが、「前もってわかっていれば」RhDマイナスの血液は各血液センターレベルで対応できている状態です。もしその地域の血液センターで対応できなければ、隣接する都道府県の血液センター間で連絡を取り合って血液を調達できます。ですから、出産予定日が近づいており輸血が必要かも知れないということであれば、医師の判断で血液センターに前もって相談することになります。このようなケースでは、たとえ日本どのような地域に住んでいたとしてもAB型RhDマイナスの輸血用血液を調達することに問題はないでしょう。
 それ以外に、自分の血液を取って保存しておき必要な時に輸血するという方法(自己血輸血)もあります。妊婦でこれを行うかどうかは必ずしも意見は一致しておりませんが、血液型が稀な方や、帝王切開を予定していてある程度以上の出血が予測される時など、場合によっては自己血輸血を実施する施設もあります。
 通常のお産では輸血なしで対応できますので、むしろRhDマイナスの人は輸血よりも別に心配することがあるのではないでしょうか?それは出産に関連して奥様の体に赤ちゃんの血液がはいりこみ、抗Dという抗体ができてしまう可能性です。もしこの抗体ができてしまうと、2番目以降の妊娠で流産などの問題が生じることもあります。しかしこれに関しても予防法は確立しております。次項の「Rhマイナスの母親の出産で注意することは?」を参照下さい。



<質問2> Rhマイナスの母親の出産で注意することは?

 妊娠してから初めて知ったのですが、RhマイナスのB型でした・・・。今まで、自分の周りにRhマイナスのB型の人なんていなかったので少し不安です。出産の時に、どれくらいの出血があるかどうかも解りませんが 今から自分の為に、自分の血を採っておく方が良いのでしょうか?
 それに、赤ちゃん1人目は何とかなるそうですが 2人目を妊娠した時に、Rhマイナスだと流産し易いと友達の看護婦さんから聞きましたが・・・

<回答>

 日本人では200人の1人の割合でRhマイナス [正式にはRhDマイナスといいます] の方がお ります。0.5%ということになりますが、この頻度はそれほど稀というわけではありません。これに日本人のB型の頻度(22.1%)をかけると、0.0011(約900人に1人)ということになります。正常な分娩なら輸血をしなければならないことはそう多くありません。輸血が出産の際に必要になったとして、事前に血液センターに連絡しておけば間違いなくB型RhD(-)の血液の供給は可能です。出血が多いかも知れないと産婦人科の先生が判断すれば、それなりの準備をしてくれるはずです。自分の血液(自己血)を保存しておいて出産に臨 むことは、とても稀な血液型の人の場合には行われることもあります。あなたの場合はおそらくその必要はないと思います。

 お父さんがRhD陽性であってもおなかの中の赤ちゃんがRhDマイナスのことはありますが、頻度からは赤ちゃんもRhD陽性の可能性がずっと高いでしょう。RhDマイナスのお母さんの体の中にRhD陽性の赤ちゃんの赤血球が侵入するようなことがあると、「抗RhD抗体」というものができてしまいます。赤ちゃんの血液がお母さんの体内へ侵入するのは、妊娠28週以降から少しずつみられるようになり、分娩時にその可能性が最も高いとされています。RhDマイナスのお母さんの血液にRhD陽性の赤血球が侵入してから抗RhD抗体ができるまで、通常は4〜8週間以上を要します。従って、その時おなかの中にいるお子さんには何の影響もありません。抗RhD抗体ができてしまうと、次の赤ちゃんを妊娠したときにこの抗体が胎盤を通り抜けて赤ちゃんの血液の中に移動してしまいます。赤ちゃんの血液型がRhD陽性であれば、この抗体は赤ちゃんの赤血球を攻撃して壊します。このことにより胎児貧血・胎児死亡(流産)が生じたり、妊娠を継続することができても出産してから赤ちゃんが新生児溶血性黄疸という病気になったりします。

 抗RhD抗体ができるきっかけは、RhDマイナスのお母さんがRhD陽性の赤血球に初めて接触するという「初体験」をもとにしています。この「初体験」を未然に防いであげれば、RhDマイナスのお母さんに抗RhD抗体ができるのを避けるができます。そのため、不特定多数の人の抗RhD抗体を集めた抗RhD免疫グロブリンという薬を、通常は妊娠28週頃に一度注射し、さらに出産後に赤ちゃんの血液型がRhD陽性であることを確かめてもう一度注射します。こうすると、注射した抗RhD免疫グロブリンがお母さんの体の中に侵入してきた赤ちゃんの赤血球を壊してしまいます。従って、お母さんの体の中に抗RhD抗体ができるのを防ぐことができ、次の赤ちゃんも最初の子供さんと同様に問題なく出産できるのです。ところで、お父さんもRhDマイナスであれば、赤ちゃんもRhDマイナスですので、今述べたようなことは不必要です。



<質問3> 交差試験に血漿を用いない理由は?

 交差試験で血漿はなぜ使われないのでしょうか? 透析患者など、ヘパリンを投与している患者血液はとても凝固しにくく、出血などによる緊急輸血が必要とされたとき対応にたいへん困っています。病院によっては、抗ヘパリン剤などを含んだ凝固促進剤を使い対応しているところが多いようですが、血漿ではだめなのでしょうか?


<回答>

 (1)クロスマッチで血漿を使用しない理由: 血漿に抗凝固剤がはいっていても部分的な凝固系の活性化を完全には抑制できないことがあるのがわかっております。とくにフィブリン線維形成があると赤血球凝集の判定に迷うことがあるので、一般 に交差試験では血清を用いています。また抗Jkaなどのように補体の活性化を検出している抗体では、血漿を用いると検出できないとされます。(抗凝固剤は Ca++を結合することにより凝固を抑制するが、Ca++が必要な補体の活性化も抑制することになる)

 (2)ヘパリン投与されている患者血液の輸血検査に関して: 血液が凝固しにくく 血清を得にくい場合、当施設では抗ヘパリン作用のある硫酸プロタミン、あるいはトロンビンそのものを添加して、凝集させ血清を分離しております。

<追加質問> 市販の凝固促進剤入スッピッツを使用したらどうか?

 クロスマッチで血漿を使用しない理由は、わかりました。 (1)フィブリンの析出による紛らわしい判定の防止と、(2)広範囲クームス血清を用いるとき、IgG性の抗体がはがれてしまっても、血清 なら補体経路が活性化されているので凝集として捕えることができる、ということですね。ヘパリン血での対処法もわかりました。ここで追加質問です。純粋な抗ヘパリン剤や、トロンビンを加えれば、クロスに対する影響はないと思いますが、コストの関係で、生化学で用いられる市販の凝固促進剤入スッピッツを使用するとどうなのでしょうか?

<回答>

 市販の凝固促進剤入りスピッツは当輸血部では使用 したことがないので確答できませんが、調べたところ凝固促進剤に何を用いているかは企業秘密のようです。実際問題として、メーカーが抗凝固物質について明らかにしないのでし たら交差試験に使うわけにはいかないと思いますがいかがでしょうか。  なおコストですが、硫酸プロタミンは安価ですし、トロンビンは(偶発的 にですが)ただで入手できることもあり得ます。病棟で開封したバイアルの使い残しが出た場合に入手する方法ですが、あからさまには勧められません。



<質問4> エリスロポエチン(EPO)の有用性は?

 輸血回避のためや血液疾患のためにEPO療法があるそうですが、その臨床における 効果を教えてください。


<回答>

 エリスロポエチン(Erythropoietin: EPO)は、主として腎臓(一部は肝臓)から分 泌される造血ホルモンです。その作用は、「未熟な赤血球系細胞の増殖を刺激し分化と成熟を促す」というものです。このホルモンは現在遺伝子組み替え技術により工業 的に生産されており、医師の処方できる薬剤として厚生省から承認されております。保険上認められている薬剤としての適応は、(1)腎性貧血、(2)未熟児貧血、(3)手術施行患者の自己血貯血(800ml以上貯血する場合)です。試験的投与による研究まで含めると、種々の血液疾患(骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、多発性骨髄腫の 貧血)や2次性貧血(慢性関節リウマチや他の膠原病などの貧血)でも、効果がある場合があります。

 保険適応疾患では、一定の効果が期待できると言えます。(1)の腎不全による貧血 では、EPOを分泌する臓器である腎臓が機能不全となりEPOが低下しますので、EPO補充療法は合理的でもありますし、ある程度の効果も期待できます。(2)の未熟児の貧 血も、腎臓の内分泌作用が未熟なせいかEPOが低下していることが多く、こうした例ではEPO投与は効果があります。(3)の自己血貯血は、手術の日程を余裕をもって設定 できるような病気では、手術で出血したときに他人の血液を輸血する(同種血輸血といいます)のを避けるために、自分の血液を前もって貯めておき、手術の時にそれを 輸血する方法です(自己血輸血)。同種血輸血にはさまざまなのリスクがあり、現時点でそれらをゼロにすることはできません。自分の血液を使用すれば、同種血による リスクはすべて無くすることができるので、メリットは大きいと言えます。今述べた3つの場合を除けば、他の疾患で効果のある割合は高いとは言えません。特に私どもが効いて欲しいと思う骨髄異形成症候群や再生不良性貧血では、重症な例ほど効きにくいのが現実です。というのも、これらの病気ではEPOの不足ではなく造血そのものに障害があるので、当然と言えば当然のことです。 慢性関節リウマチによる2次性貧血や、エイズ患者の貧血などではEPOの有用性を期待するむきもあります。



<質問5> Jra- 血液型と言われましたが?

 札幌在住の、39歳の女性です。数年前、献血をした際に、Jra-という血液型であることが判明し、 現在稀血登録をしています。ちなみにABO・Rh式血液型はB型Rh+です。私の場合、普通のB型の血液が輸血されても、 副作用は大きく出ないのかもしれませんが、周りに同じ血液型の人がいないというのもなんとなく不安なものです。具体的な副作用について、教えていただきたいのですがよろしくお願い致します。

<回答>

<はじめに>
 日本人における【B型】の頻度は22.1%、【Rh+】の頻度は99.5%、【Jra-】の頻度は 0.03%(10000人のうち3人)と考えられています。従って、これらの血液型の間に何も連関がないとしますと、【B型, Rh+, Jra-】の方の頻度は 0.221 x 0.995 x 0.0003 = 0.000066(0.0066%)、すなわち10万人に6.6人ということになります。確かに多いとはいえない数字ですね。血液センターでは【Jra-】は稀な血液型として取り扱っており ますが、稀な血液型は更に2つの群に分けられます。第1群は極めて稀な血液型で、Bombay型やpara-Bombay型などの血液型が含まれます。これらの血液は大阪の赤十字血液センターで冷凍保存されます。第2群は「稀な血液型ではあるけれどもその中では比較的頻度の高い血液型」と定義され、【Jra-】は2群に分類されます。第2群の血液型は、各ブロックの中心となる血液センターに登録されます。あなたのように「稀血登録」をした方には、必要な人がいる時に血液センターから連絡がはいり献血を依頼されることがあります。あなたと同じ【B, Rh+, Jra-】の稀血登録をしている人 が、きっと北海道にも一定数あると思いますし、必要であれば東京、大阪、名古屋などの血液センターに登録している人に依頼して献血をしてもらい、それを取り寄せる ことも可能と思います。

 ご質問の内容は、【Jra-】の血液型の人に【Jra+】の人の血液がはいったらどうな るか、ということになります。通常量(たとえば400〜800ml)の輸血を初めてした場合、何も生じないと考えていいと思います。しかし、一旦輸血をすると、【Jra-】の人は【Jra+】の血液型に対して、抗体(抗Jra抗体)というのができる可能性があります。このようにしてできる抗体を総称して「不規則性抗体」といいますが、もしこの抗体ができてしまうと、次に【Jra+】の血液がはいってきた場合、「溶血」とい う輸血された赤血球が壊されるという現象が生じる可能性があります。溶血は軽ければ検査値の異常(LDHという酵素の上昇)や軽度の黄疸のみで済むこともありますし 、強い溶血が生じるとショックや播種性血管内凝固症候群(DIC)という重篤な事態に至ることもあります。
 ですから、【Jra-】の人に輸血が必要な場合は【Jra-】の人の輸血をするに越した ことはないわけです。輸血が必要と考えられる場合、まず第一に「自己血輸血」を考えます。自分の血液を採血して保存しておき、後日に備えるわけです。これは緊急性 のない、余裕を持って手術日を設定できる場合に最適の方法です。採血した血液は4℃で通常3週間、方法によっては最大6週間まで保存することが可能です。凍結保存をすれば、年という単位で保存が可能です。病気のため貧血が強いなどの理由で自己血輸血ができない場合、前述のように血液センターに前もって依頼すれ ば、【B, Rh+, Jra-】の血液型を手にいれることは可能と思います。

 つけ加えますと、【Jra-】の人に【Jra+】の輸血をしても抗体が必ずできるとは限 りません。血液型の合わない輸血をした場合、最も抗体ができやすいと考えられている【Rh(D)-】の人に対する【Rh(D)+】の輸血であっても、その頻度は50%程度と考え られており、決して100%ではありません。【Jra-】と【Jra+】の場合の頻度は、50%よりはずっと低いのではないかと考えられます。 一方、輸血だけではなく、(頻度は更に低いと考えられますが)妊娠・出産によっても抗Jra抗体ができる可能性はあります(子供さんが【Jra+】の場合)。ですから 、あなたに抗Jra抗体ができているかどうか、調べられるなら調べておいて損はないと思います(不規則性抗体スクリーニングという検査です、輸血も妊娠歴も無ければ 不要)。抗Jra抗体ができているならば、輸血をするときは自己血ないしは【Jra-】の血液を入れることが要求されますし、この抗体が無ければ、間違って【Jra+】の血液ががはいってもとりあえず1度だけは副作用なしに済むと思われます。



<質問6> O型血液を他の血液型の人に輸血してもいいの?

(1)子供の頃、全血輸血だと思うのですが、O型の血液は他の血液型の人にも輸血できると聞いたことがあります。これは、実際に行なっていたのですか、あるいは現在も行な っているのですか。
(2)過去に行なわれていたとしたら何年ごろまで行なわれていたのですか、また法律的 に認められていたのですか。
(3)現在も行なっているとしたら、法律はどうなっているのですか。
(4)成分製剤輸血を行なう場合も同型を行なうことが基本なのでしょうか。

<回答>

(1)実際に行われたものと思います。現在は特殊な状況を除けば、必ずABO式とRh式 血液型を合わせて行います。
(2)正確な調査に基づく統計は無いと思います。特殊な状況下では現在でも行われることがあり得ます。つまり、現在進行形です。
(3)一般に医療行為は法律の条文では規定されておりませんので、この血液型にはこの血液型の輸血をするといったような法律はありません。その時代に正しいと考えられる医学的知識に則って医療行為は行われてきましたし、今後もそうだと思います。
(4)成分輸血においても血液型を合わせて行うのが原則です。

<血液型に関して−基礎事項>
 まずABO式血液型のを決めるのは、Aという物質とBという物質の2種類です。A型の 人の赤血球表面にはAがあります。同じようにB型の人にはBが、AB型の人にはAとBの両方があります。O型は0(ゼロ)のことと考えていただけば、AもBも存在しないとい う意味だと理解できます。
 つぎに、それぞれの血液型の人は血液(血漿)の中に、自分には無い物質と反応す る「抗体」というものを生まれながらにして持っております。すなわち、A型の人は自分には存在しないBという物質に反応する抗体(「抗B」といいます)を持っていま す。同様に、B型の人は「抗A」を、O型の人は「抗A」と「抗B」の両方を持っています。AB型の人は「抗A」も「抗B」も持っていないことになります。
 AやBという物質は赤血球の表面に、そしてこれらと反応する「抗A」と「抗B」は血漿中に存在することに注意して下さい。

<不適合輸血について>
 A型の人にB型の人の輸血を行った場合、A型の人には「抗B」がありますので、これ が輸血血液のB型赤血球表面のBという物質と反応し、溶血(赤血球破壊)という重篤な現象が生じます。これは致命的なことも少なくありません。逆にB型の人にA型の血 液がはいった場合には、「抗A」によるA型赤血球の破壊が生じます。A型、B型の人にAB型の赤血球が輸血されても、同様の赤血球破壊が生じます。ところが、O型の赤血 球表面にはAもBも無いわけですから、「抗A」も「抗B」も反応しようがありません。すなわち、A型(「抗B」保有)やB型(「抗A」保有)、AB型(「抗A」も「抗B」も無 し)の人にO型の赤血球がはいっても赤血球破壊は生じない訳です。これが、O型の血液は誰にでも輸血できると言われる根拠です。 しかし現在そのような輸血は原則的に行われません。その理由は、O型の血液の中には「抗A」と「抗B」の両方があり、A型、B型、AB型の人に輸血(特に全血輸血)す るとこれらの赤血球を破壊する可能性があるからです。特に大量全血輸血の場合は無視できないと思われます。また献血システムが確立している現在、A型・B型・AB型の 人に同じ血液型の供血者をさがすことは、何も難しいことではありません。それなら、あえてO型の血液を違う型の人に輸血する必要はない訳です。

<O型血液を他の血液型の人に輸血したら?>
 O型の血液を異なる血液型の人に輸血したとします。はいっていく血漿 の量は1単位(200ml)の全血輸血で90〜100ml以下で、これだけの輸血で重篤な溶血は生じにくいのも事実です。実際、血液型不適合輸血で死亡した過去の症例を拾い集 めてみても、「O型血液の不適合輸血による死亡例は1例もありません」。A型・B型・AB型血液の不適合輸血に限って死亡例があるのです。 さらに、現在の「RCC-LR」という成分製剤では血漿成分はほとんど取り除かれておりますし、「洗浄赤血球」では血漿成分はほとんど無視できます。これらの製剤 によるO型赤血球の不適合輸血があっても、重篤な副作用はまずないものと考えます。
 しかし前述のように、敢えてO型の赤血球を違う血液型の人に輸血しなければなら ない状況は存在せず、私どもは当然のこととして血液型を合わせた輸血用血液製剤を準備しますし、それが最も安全です。

 <例外−特にO型血液を選んで輸血することもある>
 O型の赤血球を選んで輸血することがあります。その代表的な ものが母児間のABO式血液型不適合による「新生児溶血性疾患」です(詳細は長くなりますのでこの文面では省略します)。この場合は新生児の血液型に合わせた輸血よ りも、「O型の赤血球を輸血したほうが安全」とされております。この疾患のため「合成血」という製剤を赤十字血液センターでは発注に応じて製造可能です。これはO型赤血 球をAB型血漿で浮遊させたもので、人工の血液というわけではありません。



<質問7> PC、FFPで交差試験は必要か?

 かつて私が福井医大に勤務していた時、輸血の適合検査はMAP製剤のみ行っていたと記憶しています。現在私の勤務する施設では、輸血製剤が何であれすべて検査技師が24時間体制 で交差試験をすることになっています。PCやFFPは緊急で入れることが少なくなく、その度適合検査の結果を待つのは時間がもったいない気がします。検査技師が交差試験をしてくださることはありがたいですが、そう意味のないことに時間を費やしてい るような気がしてなりません。福井医大で適合検査を行っていないPC、FFP輸血に関して、過去にまったく事故がないのかどうかお教え下さい。

<回答>

(1)PC、FFPに混入する赤血球の問題
 PCとFFPに「ごく微量」の赤血球の混入はあります。しかし、仮にABO血液型不適合のPC、FFP輸血をしても、通常量の輸血では血液型不適合による副作用はありませんし、当大学でもそのような副作用の事例を知りません。混入した赤血球が微量であり、溶血が生じたとしても無視できるからです。またFFPの場合には、混入した赤血球は凍結溶解操作でほとんど溶血してしまうでしょう。
(2)ドナー血漿中の抗A、抗B抗体の問題
 血液型不適合のPCあるいはFFP輸血をすると、ドナー血漿中の抗Aあるいは抗B抗体 による受血者血球の溶血が生じる可能性があります。しかし、これもPC10〜15単位(血漿約200ml〜250ml)あるいはFFP2単位〜4単位(血漿240〜480ml)程度ですと、溶血が生じてもsubclinicalなレベルで終わるとされております。
 例をあげると、抗HLA抗体による血小板輸血不応状態ではHLA適合血小板が有効なこ とがありますが、この時の輸血では血液型よりもHLA適合性を優先して輸血することがあり、それで特に問題は生じておりません。ただし、O型の人は時に高力価の抗A、抗Bを もっていることもありますので、O型血小板を他の血液型の人に輸血する場合は、血漿を除去するのが無難とされます。HLA適合PC輸血での優先順位は、ABO/Rh血液型適合血小板、AB型血小板、AまたはB型血小板、の順ということになるでしょうか。
(3)ドナー血漿中の不規則性抗体の問題
 ドナー血漿中に不規則性抗体がある場合は、それが問題となることも理論的にはあり得ます。あったとしても、前項と同様の理由で、subclinicalに終わるでしょう。つけ加えれば、血液センターではドナースクリーニングで不規則性抗体のチェックを行っており、陽性のものは製剤として出庫しません。血液センターのスクリーニングシステムのほうが、医療機関のシステムよりもはるかに整備熟練されておりますので 、医療機関レベルで再検査する必要はないと考えます。

<結論> PC、FFP輸血で交差試験は不必要。どうしても「したい」というのであれ ば、双方のABO式血液型が(一緒にできますのでついでにRh式血液型も)合っていることだけ確かめれば十分、というのが私の意見です。



<質問8> 血液比重が軽くて献血できませんでしたが?

 私もぜひ献血に協力したいのですが、一つ気になることがあります。 先日の健康診断の結果「全血比重要再検」と出ました。数値は1.049です。献血をするのに不適格なのでしょうか。


<回答>

 善意で献血をされる方に採血による思わぬ迷惑をかけるようでは、献血事業の主旨に反します。血液センターは献血者の健康を守ることを第一に考えており、そのために「採血基準」を設けています 。200mlの全血献血と血漿成分献血では全血比重1.052以上(またはヘモグロビン12g/dl以上)、400mlの全血献血と血小板成分献血では全血比重1.053以上(ま たはヘモグロビン12.5g/dl以上)を基準にしています。それ以外には体重・血圧・体温・献血の間隔などについて基準を設け、問診票によるチェックも行い 、基準に合致した方のみに献血をお願いしています。

 全血比重1.049は上記の基準からはずれますので 、「要再検」という返事だと思います。きっと「全血比重」とは何ぞや?、とお感じのことと思いますが、実は私も正確にその原理はわかりません。全血比重という のはかなり原始的な方法で、私が医学部に在学した20年以上前にすでに教科書の中から消えていた検査法でした。一定の比重に調整した硫酸銅の溶液に血液を一滴落とし 、赤い血液が沈むか沈まないかを見る方法ですから、察するに血液の中の主に赤血球の比重を見る方法です。赤血球の中にはヘモグロビンがたくさんあり、ヘモグロビン は鉄を含んでいるため赤血球の比重は重くなります。結局、全血比重はヘモグロビンの量と相関すると考えられます。ヘモグロビンの量から私どもは貧血かどうかを判断 しますから、全血比重など見ずにヘモグロビンを測定すれば済むわけです。実際、採血基準には「全血比重1.052以上、またはヘモグロビン12g/dl以上」というふうに、 ヘモグロビン量で判定してもいいことになっております。血液センターが献血者の適格性を判断するのに全血比重を今もって採用しているのは、安価でたちまち判定でき る簡便さのためです。ヘモグロビンを測定する機械を備えていない献血車も時にあるようですので、全血比重法がいまだに生きているというわけです。
 それはともかく、全血比重とヘモグロビンに関する基準のどちらか一方を満足すれ ばいいわけですから、ヘモグロビンが12g/dl以上あれば献血できることになります。ヘモグロビン値がこの基準を満足している可能性もあると思います 。もしヘモグロビンがこのレベルに達しない場合(閉経前の女性ではこのレベルに達しない方は相当数おります)、もう少し鉄分の多い食事を心がける必要があるかも知 れませんね。

 申し添えますと、血液センターの基準は「貧血かどうか」ではなく「200mlないし400mlの採血をしても健康に差し支えないかどうか」を判断しているわけですから、基準を満足しなかったから「異常」と考えるのは間違いです。