大学動物実験施設における震災等への対応について

平成7518
国立大学動物実験施設協議会

 大学動物実験施設においては、先の文部省学術国際局長通知(昭和62年5月25日付け、文学情第141号)に基づき動物実験指針等を整備し、日頃これを遵守して施設の適正な管理・運営を心掛けている。平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の経験を生かし、震災などへの対応ガイドライン作成委員会を設け検討した結果、このたび次のような緊急対応策を取りまとめた。

1.趣旨
 動物実験施設では研究に不可欠な実験動物を保管管理し、かつ、医学・歯学・薬学・生物学など、生命科学全般にわたる様々な実験研究を行っている。これまで、動物実験施設の管理運営に当たっては、動物福祉上の配慮、実験精度の確保、地域環境保全への配慮などにつき十分誠意をつくしてきたところであるが、阪神・淡路大震災(平成7年)の教訓から、さらに被災時の対応を念頭に、平時留意すべきこととして下記の様な事項が指摘され、大災害時における貴重な動物資源の保護ならびに地域環境への影響防止等につき一層の配慮を求めるものである。

2.留意事項
1)動物福祉上の配慮
 阪神・淡路大震災の被害状況を教訓とし、平時、実験動物の生命を守る施策として次のような点に留意すること。
(a)水源の確保
 動物にとって暖水は決定的な被害をもたらす。災害発生時の水源確保(井戸水や貯水を含む)、給水ラインの破断防止(たとえば、水道管と飼育装置の自動給水配管は耐圧のリコイリングホースで接続するなど)、また、緊急時の給水用具(給水べん・おわん・分注やかん、ポリタンク、大型ポリペール、柄杓など)の備えは肝要である。
(b)飼料の備蓄
 都市・交通機関等の被災状況にもよるが、最低1ヶ月分程度の飼料の備蓄は必要と思われる。また、長期間の室温保存に耐える飼料の開発も緊急な課題と言える。
(c)空調機能の確保
 季節によってはかなり厳しい室温状況に陥る。自家発電装置は動物飼育室をカバーできる程度の高出力が望ましい。不可能な場合、家庭用温風器やセラミックファンヒーターなどの蓄えは必須となるので、その際は燃料となる重油、軽油、燈油などの安全備蓄も考慮する必要がある。
(d)汚物処理
 被災時、ケージや飼育架台などを水洗できぬ状況を考え、たとえば、床敷飼養への切り替え、じゅうのう、塵取り、ドライワイパーなどの用意、その他、ウェットティッシュ、ペーパータオル、古新聞、厚手のポリ袋、ポリ手袋、などじゃ大変重要な備蓄品と思われる。
(e)飼育架台等の固定
 震度5以上の直下型地震の揺れにも耐えうるよう、大型飼育装置は床固定式とする方が望ましい。飼育ラックや試薬棚類も壁固定を心掛ける(二段重ねの棚は上下固定も有効である)。その際、飼育ケージや試薬びん等の落下防止のため棚板に桟をつけることも必要である。水平運動可能な大型キャスター付飼育ラックは倒れにくく、ケージの落下も無かったとの報告がある(匡史、排水ピットがある場合、キャスターがそこに落ちて転倒したとの報告もあり留意すること)。

2)地域環境保全への配慮
(a)動物の逃亡防止
 近代的な動物実験施設は基本的には閉鎖環境となっているが、万一の事態を予想し動物の逃亡防止には万全の対策が望まれる。特に、感染実験中の動物、RIトレーサー実験中の動物、遺伝子導入動物などは逃亡により自然環境を害する一面を含むので厳重なバリアーが必要である。この点については、各関連部局の長がその責任において以下のような万全の対策をとっておくこと。
 現場においては、災害時にこれら動物を逃亡させないため、まず、脱出防止装置の付いたケージで飼育すること、飼育室内の吸排気口には金網ロック(窓があれば金網入りガラスの使用)を施す。また、飼育室入口には十分な高さの鼠返しを取付ける。
 さらに、一般的なことではあるが、使用中の病原体、RI、導入遺伝子の種類の記帳、使用中動物の正確な個体識別などは日常から遺漏のないようにする。
(b)地域住民への対応
 災害時、地域住民に無用な不安を与えないよう、地域住民の求めがあれば、部局の長を通じ、当施設の構造・研究内容等について説明または資料の提供を心掛ける必要はあろう。

3)その他
 災害時の行動マニュアルと職員連絡網の整備・携帯、緊急時の対応訓練、また、ヘルメット、携帯電話。携帯無線、小型ジャッキ、懐中電灯、小型ジャッキ、懐中電灯、小型自家発電機などの備え・点検なども重要である。

3.災害発生時における措置
 災害発生時には施設長、専任教官等の指揮の下、以下の対応をとる。
1)まず、施設全体(動物含む)の被害状況の概要を把握する。
2)一室に対策本部を設け、職員の安否、出勤の可否などを確認、具体的な復旧行動計画を練る。
3)そして、逃亡動物の収容・選別(止むを得ぬ時の安楽死措置)、給餌・給水体制の確立、動物屍体の処置、飼育室や一般区の清掃・衛生処理など、順次、緊急度を要するものから復旧作業にとりかかる。

4.報告および通報
1)災害発生時、下記事項を速やかに学内関係者はじめ文部省学術国際局学術情報課ならびに国立大学動物実験施設協議会会長校に連絡する。
(報告事項)
(a)人身事故の有無、(b)動物への被害、(c)建物・設備等への被害、(d)ライフラインの状態、(e)物的・人的応援の必要性、(f)その他
2)新聞発表等は、文部省学術国際局学術情報課と連絡を密にし、施設長や部局の長の責任の下で行う。
3)施設の機能がほぼ復旧できた時点では、被害内容、取った対応策の実際等につき報告書にまとめ大学・文部省などの関係部局、ならびに動物実験施設協議会会長校に提出し将来の参考に資する。