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1. DNA多型マーカーの開発と応用
近年,DNA多型分析技術は目覚しく進歩し,法医学領域の親子鑑定や犯罪捜査において威力を発揮している.中でも,DNA多型マーカーのうちY染色体上に座位があり父系遺伝を示すマーカーは,性別判定,父子鑑定,性犯罪の証拠試料の検査において極めて有用であり,法医学的利用価値が高い。現在Y染色体上のマーカーの検査用試薬として数種が市販されているが,「感度が十分でない」,「日本人における遺伝子頻度分布に偏りがある」,などの理由で実用性に乏しかった.
当教室では,これまでに,新しいY染色体上の短縦列繰り返し配列 (STR) 5種(DYS441, DYS442, DYS442, DYS442, DYS442)を同定し,これらの5種のマーカーを,短時間で同時に検出するためのmultiplex-PCR法を開発し,陳旧試料や混合試料などの法医学的試料に適用可能な高感度検査法を確立した.また,日本人,白人種,アフリカ系アメリカ人および漢民族の4グループについて遺伝子頻度分布を比較し,これらのマーカーが人種・民族の判別にも有用であることを明らかにした.
2. 酸素濃度の急激な変化に基づく肺病変に関する研究
Paraquatの誤飲事例、人工呼吸器管理時のルートの繋ぎ間違え事例等の司法解剖に於いて、瀰漫性肺胞傷害(Diffuse alveolar damage: DAD)の発症が認められた。このDADの発症には、事件後に施された高濃度酸素を用いた人工呼吸器管理の関与が推測された。これは、救急医療で頻繁に経験する病態でもあるが、高濃度酸素曝露に基づくDADの発症機序に関しては未解明な部分も多く、酸素中毒(Oxygen poisoning)の予後の改善のためにも分子レベルでの病態生理の解明が望まれている。マウスを高濃度酸素(酸素濃度100%)マウス飼育装置内で飼育すると、4~5日後にDADに基づき死亡し、肺に肺胞壁硝子膜を認めた。マウス(C57BL/6J)を高濃度酸素マウス飼育装置内で3日間飼育すると、HE染色で顕著な変化を認めないが、免疫染色ではGalectin-3 (anti-apoptotic lectin)を発現した炎症性細胞の増加を認めた。これはapoptosisの進行を示唆するものと考えられた。
一方、mRNAの発現は以下のような時系列的変化を示した。“CCN family”のCystein rich protein 61(CYR61)およびConnective tissue growth factor(CTGF)のmRNA発現は有意に増加した。これらの誘導は、血管新生などの器質化過程の進展を示唆した。
また、Surfactant-associated protein C(SFTPC)、Cytochrome P450 2f2(CYP2F2)、Tight junction(細胞間接着装置)を構成するClaudin 1(CLDN1)、Membrane-associated zonula occludens(ZO-1)等のmRNA発現の有意な減少は、肺胞虚脱への進展を示唆した。
更に、Lysozyme (LYZS)のmRNA発現の有意な減少は、免疫の破綻を示唆しているものと考えられた。尚、Myelocytomatosis oncogene(Myc)およびGalectin-3のmRNA発現の上昇は、apoptosisの進行を裏付けた。高濃度酸素状態が肺組織に於ける活性酸素の生成を誘導し、活性酸素によって誘導されたMycが更なる活性酸素を発生させ、上記のようなmRNA発現の変化を誘導していると推定した【Int J Legal Med 122(5):373-383,2008】。
上記の研究成果は、Glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)によるnormalizationのデータおよび生データからの解析結果である。本年度に於いて、β2 –microglobulin(β2M)、Ribosomal protein: large P2(RPLP2)、およびImportin 8 (IPO8)でのnormalizationによるデータでも上記と同じ結果であることを確認した【Legal Med 2009 (in press)】。
3. オリゴヌクレオチドの構造・機能相関に関する研究
非メチル化CpGモチーフを有するオリゴヌクレオチドが,ヒト形質細胞様樹状細胞においてToll-like receptor 9を介して,IFN-α産生を強く誘導することを発見した.この誘導現象に,p38 MAPキナーゼ依存性STAT1リン酸化が関与することを明らかにして報告した.
これらの研究は,日本学術振興会科学研究費補助金,他の援助を得ておこなわれ,いずれも本学の理念に沿い,独創性や国際性,地域貢献度の高い研究である.