本プロジェクトは4つの領域における研究から成り立っています。
各領域の研究内容については以下のとおりです。

  《領域1》                            領域長 : 村瀬 一之   
 中枢神経系の発達のメカニズムを調べるには、生きたままの脳深部での細胞情報伝達や分子組成などを観察する必要がありますが、現在のところその方法は非常に限られております。また、神経系の学習と記憶の発達を支える神経機構は十分に理解されているとはいえません。そこで本領域では、主として2つのアプローチによってこれらに取り組みます。
 まず、新たな時短パルスレーザーを用いた新たな顕微鏡を開発します。これにより生きたままでの大脳皮質の発達・成長と神経線維の髄鞘化、刈り込みとの関連についての研究に役立てます。具体的には、小型で高効率かつ高出力のパルス動作ができるイッテルビウム超短パルスレーザーを用いた新たな仕組みの顕微鏡(多光子励起顕微鏡、非線形光学顕微鏡)を開発します。
 また、共焦点レーザー顕微鏡を用い、リアルタイムで生体イメージングを行い、神経の興奮やカルシウムなどの伝播を測定することにより、神経可塑性のメカニズムに迫ります。特に、近年注目を浴びている神経可塑性へのグリア細胞の関与について明らかにします。
 以上のごとく、本領域では最先端技術を開発し駆使することにより、神経系の発達のメカニズムの解明に取り組みます。

  《領域2》                            領域長 : 佐藤 真    
 生まれ、育つ過程で、脳がどのようにできあがり発達していくのか。私たちの領域では、その様子を明らかにし、分子や細胞のレベルでその仕組みを明らかにすることを目的としています。さらに、発達障害のみならず精神疾患の少なくとも一部は、この脳の発達過程に何らかの問題があり起こります。そこで、発達の過程のどのような障害が、どんな脳機能不全・疾病をもたらすのかを分子・細胞のレベルで明らかにします。そして、得られた知見に基づき「脳発達の仕組み」および「分子・細胞」に基づく治療を考えます。則ち、発達に伴い疾病が顕在化する以前に、どのように、そして、どのような治療をするべきかを研究します。
 特徴的研究内容は以下のようになります。 1) 大脳皮質の形成・発達の仕組みの解明とその破綻による疾病 2) 生体リズムとその破綻による疾病 3) 投薬による脳発達の障害と疾病。
 私たちの研究は、細胞や実験動物とヒトのいずれにも関わります。実験動物などの研究で得られた科学的知見を、ヒト脳の理解・疾病克服に展開するべく、研究を展開します。

  《領域3》                            領域長 : 岡沢 秀彦   
 子供から大人への成長に従って、個人の認知的・心理的能力が発達していくことはよく知られていますが、その行動の変化を引き起こしている脳発達に関する科学的データ、特に日本人の健常な児童については、これまであまり明らかにされていませんでした。そこで、我々の領域では、児童および成人を対象として、機能により発達段階が異なる脳内の神経ネットワークの成熟の仕組みを解明し、社会に還元することを目的としています。
 そのための手法として、人体に侵襲性のない核磁気共鳴画像(MRI:Magnetic Resonance Imaging)法を用います。この方法を用いることによって、
1) 脳内の神経ネットワークが、年齢や機能の発達と共にどう変化していくのか?
2) 脳内の様々な領域の容積が、年齢や機能の発達と共にどう変化していくのか?
3) 認知課題遂行中の脳の活動が、年齢や機能の発達と共にどう変化していくのか?
を様々な行動・認知・心理検査をすることや、新しいMRI撮像法の導入により明らかにしていくことができると考えています。
 そして、この領域3で得られた科学的知見を、領域4と連携しながら、教育や子育てなどの人材育成の現場に応用し、個々の子どもの発達段階や認知と学習スタイルの多様性に応じた教育・支援、特に発達障害など特別支援教育に関する教育指導・支援方法の開発などに貢献していくことを目指しています。

  《領域4》                            領域長 : 三橋 美典   
 第4領域の目的は、研究成果の実践・応用や社会的還元にあります。他の3領域の基礎研究で得られた成果をふまえ、発達障害や不登校など「こころ」の問題を抱えた子どもの特徴や状況をきちんととらえ、科学的な知見に基づく有効な子育て支援や教育・療育方法の開発と支援体制の確立を目指します。たとえば、以下のようなプロジェクトを計画中です。
1)子どもの注意・記憶力や他人の気持ちを理解する力、学力の基礎となる「考える力」や「活用力」などについて第3領域で開発された脳機能イメージング法(fMRI)に加え、脳波や光トポグラフィ。視線や運動動作などの行動計測手法を用いて、赤ちゃんから成人までの認知発達や学習の過程を明らかにします。
2)同様な手法を使って、発達障害や心身症などの子どもの特徴や状態像を明らかにするとともに、子どもたちの「困り感」に気づき、ひとりひとりの特徴を客観的にとらえるための国際的な評価方法の開発や、それに基づく学校・園での実態調査を行います。
3)これらをふまえて、脳科学、教育学、心理学、発達小児科学、工学などを総合した学術的観点にたって、新しい子育て支援方法の提案や教育指導・療育プログラムの開発を行い、講演会やホームページなどを通じて、広く地域・社会に発信して行きます。