多発性骨髄腫

(担当:津谷)

診 断 
治 療 (減量の目安初回治療サルベージ治療
観 察

*お知らせ

  1. 大量療法時の予防投与の用法が変わりました(10/19/01)。

A. 診 断

A-1 概 念

A-2 分 類

  • 診断基準(SWOG)

     

    Major

    I

    組織生検にて形質細胞腫を認める。

    II

    骨髄中の形質細胞比率が30%以上である。

    III

    蛋白電気泳動で単クローン性グロブリンが
    血清IgGでは3.5g/dl以上、IgAでは2.0g/dl以上のピークを示す。
    または尿のκ鎖あるいはλ鎖の排泄量が1.0g/日以上である。

    Minor

    a

    骨髄中の形質細胞の割合が10〜30%である。

    b

    単クローン性グロブリンのspikeをみるが、上記IIIを満たさない。

    c

    骨融解像がみられる。

    d

    正常免疫グロブリンの減少が
    IgM<50mg/dl、IgA<100mg/dl、IgG<600mg/dlである。

    (I+b,I+c,またはI+d)、(II+b,II+c,またはII+d),、(III+a,III+c,またはIII+d)、あるいは(a+b+cまたはa+b+d)であるなら多発性骨髄腫と診断できる。

    bがみられ前期のいずれの条件も満たさない場合はMGUS (monoclonal gammopathy of uncertain significant)

 

  • 病期分類 (Durie & Salmon)

     
    I

    次の項目の全てをみたすもの
     Hb > 10 g/dl
     血清Ca 正常
     X線で正常像もしくは孤立性の形質細胞種
     M成分低産生:IgG < 5 g/dl, IgA < 3 g/dl, 尿中L鎖 < 4 g/日

    II

    IIIIのいずれにも属さないもの

    III

    次の項目のうち一つ以上示すもの
     Hb < 8.5 g/dl
     血清Ca > 12 mg/dl
     X線で進行した骨融解病変
     M成分高産生:IgG > 7 g/dl, IgA >5 g/dl, 尿中L鎖 > 12 g/日

     

    亜分類 A:Cr < 2 mg/dL B:Cr >= 2 mg/dL

A-3 入院時検査

血清

HBsAg、HBAb、HCV、TPHA定性、RPR定性、HTLV-1、HIV、トキソプラズマ抗体、CRP、免疫グロブリン、寒冷凝集素

血液

血算セット、白血球像、網状赤血球、FDP、Dダイマー、fibrinogen、PT、APTT、TAT、PIC、(ATIII、プロテインC)、動脈血ガス

生化学1

スクリーニングセット、CPK、HBD、D・I-bil、蛋白分画、胆汁酸、Fe、Cu、ZTT、TTT、LDHアイソザイム、ALPアイソザイム

生化学2

HbA1c

生化学3

尿セット1(1日尿)、NAG

細菌

咽頭、尿、便

RI

血清

β2-MG、IgE、(オステオカルシン、PTHrP-C)

尿

(β2-MG)

外注

一般

ベンスジョーンズ蛋白(尿免疫電気泳動)、(ハイドロキシプロリン)

血清

HLA抗原(A,B,C)、HLA抗原(DR,DQ)、抗核抗体

感染症

EBウィルス(VCA-IgM,-IgA,-IgG、EADR-IgG,-IgA、EBNA)、サイトメガロウイルスIgM抗体、アスペルギルス抗原、βD-グルカン

血液

特殊染色(骨髄)(PAS染色)、モノクローナル抗体法造血器腫瘍解析(多発性骨髄腫(骨髄))、末梢血B細胞サブセット、末梢血T細胞サブセット、リンパ球幼若化試験、血液粘稠度

生化学

sIL-2R、クリオグロブリン、IgD、血清免疫電気泳動、尿中Dpd

組織

染色体検査(骨髄)

特別

三菱

(免疫グロブリン重鎖DNA 核酸増幅、免疫グロブリン重鎖再構成(骨髄))

SRL

(血清免疫固定法)

BML

組織薄切標本(15枚)、

大塚

IL-6

病棟

赤沈、便潜血、検尿、骨髄像、心エコー

輸血部

血液型、不規則抗体

検査部

心電図

放射線部

胸腹部X線、骨X線(頭蓋骨、肋骨、胸椎、腰椎、骨盤、上腕骨、大腿骨)、(胸腹部CT、頭部CT、骨シンチ)

  1. 病期分類
    • 骨髄・骨病変
    • M蛋白血症
    • 高カルシウム血症
    • 末梢血
  2. 一般検査
    • 理学所見
    • 主要臓器機能(血液、肝、腎、心、肺)の機能確認
      • 白血球≧3,000/μL, 好中球≧1,200/μL, 血小板≧7.5×104/μL
      • GOT, GPT; 正常値上限の5倍以下, 総ビリルビン≦2.0mg/dl
      • クレアチニン≦2.0mg/dl
      • 心電図正常、左心駆出率≧50%(心プールシンチ、心エコーのいずれかで)
      • PaO2≧60mmHg
    • 感染症、宿主免疫能
    • 血液型、HLA-ABC, DR 

     

  • CD38 Plasma Cell Gating 

     
    Plasma Cells
    CD19
    CD56
    MPC-1
    CD45
    CD49e

    Normal

    Malignant

    immature

    +〜±
    −〜+

    intermediate

    +〜±
    −〜 +

    mature

    +〜±

 

B. 治療

治療の実際

減量(初回投与量の目安; 臨床試験の場合はプロトコールに優先的に従う) 

 Age

PS≦2, T-Bil<1.5かつCr<2

PS≧3, T-Bil≧1.5またはCr≧2

-70
1/1
3/4
70-80
3/4
1/2
80-
1/2

中止基準

  1. Grade 4以上の有害反応がみられた場合。
  2. 原疾患の進行がみられた場合。

治療継続開始基準

  1. 治療当日の白血球数 2,000/μl以上または好中球 1,200/μl以上、リンパ球 1,000/μl以上。
  2. 血小板 75,000/μl以上。
  3. PS; 治療前より同レベル以上で、PSが4でないこと。
  4. GOT,GPT:正常値上限の5倍以下、総ビリルビン<=2.0mg/dl

 

B-1 初回治療

変更 下記の治療選択の表を加え、JCOG0005の記載を追加した(01/06/26)。

 
Stage I
Stage II − III
15

64

Watchful wait or MP

amyloidosis合併例はstage II-IIに準ずる

VAD/High-dose CPA/High-dose L-PAM

65

70

VAD/IFNα

71

MP or VAD/IFNα

本試験は中止となりました。

 

MP療法

L-PAM

8

mg/sqm

po

分1

day 1-4

アルケラン錠(2)

PSL

60

mg/sqm

po

分3

day 1-4

プレドニン錠(5)

  • 投与法
    1. MP療法の維持投与の有効性は証明されていない。
    2. 3〜6週間毎に効果がなくなるまで続ける。
    3. プレドニンは糖尿病、活動性の消化性潰瘍、HBV陽性の場合は投与しない。
    4. アルケランは食事に吸収が影響を受けるので朝食前(起床直後)に服用する。

 

VAD療法 (:JCOG0005プロトコールとは異なる

VCR

0.5

mg/body

ci 24 h

1回/日

day 1-4

オンコビン注(1)

ADM

10

mg/sqm

ci 24 h

1回/日

day 1-4

アドリアシン注(10)

DEX

40

mg/body

di 2 h

1回/日

day 1-4

デカドロン注(8)

  • 投与法
    1. 3週間毎に4〜6コース
    2. CRまたはPR: IFNα/PSL維持療法に、MR以下: サルベージ療法に移る。
    3. オンコビンとアドリアシンは混注が可能で、生理食塩水500mlに溶解し、遮光して投与する。
    4. デカドロンはルートの側管から点滴静注する。したがって可能な限り、末梢のルートを使用する用にする。
    5. 腫瘍量の多い症例は治療開始後1か月間、allopurinol 200mgを併用する。
    6. 感染症予防のために治療開始日よりST合剤(バクタ 2T/日)を使用する。
    7. 消化性潰瘍の予防のためにH2ブロッカーを使用する。
    8. 血小板が20,000/μL以下にならないように血小板輸血を、ヘモグロビン値がなるべく7.0g/dL以上になるように、必要に応じて赤血球輸血を行う。
    9. デカドロンはインシュリンでコントロールできない糖尿病、活動性の消化性潰瘍、HBV陽性の場合は投与しない。

     

  • 投与量の変更
    1. WBC < 1000/μLが3日異常続く、血小板<5万/μL、38℃以上の発熱が3日以上続く感染症に罹患した場合は、次回よりADRを75%に減量する。
    2. 神経毒性がgrade 2のときはVCRを50%に減量、grade 3以上の時は中止する。

 

IFN/PSL維持療法

IFNα

300

IU/body

sc

1回/日

3回/週

イントロンA(300)

PSL

10 (40)

mg/body

po

分3

3回/週

プレドニン(5)

 

B-2 サルベージ治療

CPA → VP-16 (PBSCH) → L-PAM (PBSCT) → L-PAM (PBSCT)
Thalidomide療法(末梢血幹細胞移植併用の超大量化学療法不応あるいは再発患者、あるいは通常化学療法に不応となり超大量化学療法が不可能な患者に適応)

CPA大量療法

  • 変更
    1. 安全のためエンドキサンの投与量は3g/sqmより2 g/sqmに変更された(00/12/01)。

    

CPA

2

g/sqm

di 2h

x 1

day 1-2

エンドキサン(500/100)

MESNA

400

mg/sqm

iv
x 4

day 1-2

ウロミテキサン(100/500)

G-CSF

5

μg/kg

sc

x 1

day 4-

ノイトロジン(100/250)
グラン(75/300)

  • 投与法
    1. Mesnaは0h(点滴開始時), 2h(点滴終了時), 4h, 8h後に投与する。
    2. エンドキサンは5%ブドウ糖 500mlに溶解する。
    3. エンドキサン投与時には尿量を保つように飲水を指導し、終了後にはハルトマンpH8を2000ml投与する。
    4. 腫瘍量の多い症例は治療開始後1か月間、allopurinol 200mgを併用する。
    5. 感染症予防のために治療開始日よりST合剤(バクタ 2T/日)を使用する。
    6. 消化性潰瘍の予防のためにH2ブロッカーを使用する。
    7. 血小板が20,000/μL以下にならないように血小板輸血を、ヘモグロビン値がなるべく7.0g/dL以上になるように、必要に応じて赤血球輸血を行う。

     

VP-16大量療法

  • 変更
  1. 安全のためエトポシドの投与量は400mg/sqmより300m g/sqmに変更された(00/12/01)。

VP-16

300

mg/sqm

di 2h

1回/日

day 1-4

エトポシド(100)

G-CSF

10

μg/kg

sc

1回/日

day 10-

ノイトロジン(100/250)

  • 投与法
    1. VP-16は点滴回路の変性を防ぐために生理食塩水1000mlに溶解し、析出を防ぐために2時間で点滴静注する。
    2. 腫瘍量の多い症例は治療開始後1か月間、allopurinol 200mgを併用する。
    3. 感染症予防のために治療開始日よりST合剤(バクタ 2T/日)を使用する。
    4. 消化性潰瘍の予防のためにH2ブロッカーを使用する。
    5. 血小板が20,000/μL以下にならないように血小板輸血を、ヘモグロビン値がなるべく7.0g/dL以上になるように、必要に応じて赤血球輸血を行う。

 

L-PAM大量療法
  • 変更
  1. 放射線療法を含むプロトコールは効果が少ないと予想されるので中止し、それに伴いPBSCTの実施日を変更した(00/12/01)。
  2. 低γグロブリン血症が誘発されるのでγグロブリンの投与回数を4回とした(00/06/19)。

L-PAM

180

mg/sqm

di 30min

1回/日

day 1

アルケラン(50)

  • 投与法
    1. アルケランは生食100mlに溶解し、溶解後は不安定なので2時間以内にすべて投与する。
    2. アルケラン投与後は尿量確保のため維持電解質液500mlを投与する。
  • 末梢血幹細胞移植

 ハプトグロビン

 4000

U/body

di 2h

day 3

 ハプトグロビン(2000)

 デキサメタゾン

 20

mg/body

di 1h

 デカドロン(8)

 PBSCT

 >1x106

CD34 cells/kg

iv

  1. 幹細胞液は三方活栓につけた注射器を利用して輸注する。
  • 支持療法
  1. 清潔度はday1よりEレベルで、day4頃に無菌室に入室する。
  2. 食事はday1より生物禁とする。
  3. 蓄尿は少なくとも点滴期間中は実施し、体温、血圧、脈拍はday 1〜6までは3回/日以上測定し、それ以後は元に戻す。
  4. 幹細胞輸注後(day3)、および翌日(day4)に尿検査をしてヘモグロビン尿をチェックする。
  5. 悪心嘔吐予防のために制吐剤を使用する。
  6. 血小板が20,000/μL以下にならないように血小板輸血を、ヘモグロビン値がなるべく7.0g/dL以上になるように、必要に応じて赤血球輸血を行う。
  7. G-CSF点滴投与時は吸着性の少ない回路・フィルターを使用する。

抗菌剤

 薬剤名

1日用量

用法

開始日

終了日

 バクタ

2 T

分2朝夕後

day -3

day 60

 クラビット

3 T

分3後

G-CSF中止後でWBC>2000となれば中止

 ゾビラックス(200)

4 T

分4後眠前

 イトリゾール(50)

2 C

分1昼後

day 3

抗潰瘍薬

 タガメット

4 T

分2朝眠前

day -3

day 21より減量

γ-globulin

 5

g/body

di 1h

day 2, 12, 36, 64 

ヴェノグロブリンIH(2.5)

 

G-CSF

 5

μg/kg

ci (sc)

day 6 -

ノイトロジン(100/250)
グラン(75/300)

WBC>5000にて中止

C. 観 察

C-1 定期観察項目

自他覚症状

腰痛、骨痛、

X線検査

腫瘤径

血液学検査

末梢血、骨髄穿刺

生化学検査

蛋白電気泳動、免疫グロブリン定量、尿蛋白定量

血清学検査

IgG,A,M、 β2MG、免疫電気泳動または免疫固定法

 

C-2 効果判定基準(JCOG-LSG)

  • 判定対象病変
     化学療法直接的効果は、定量性のある以下の4項目を対象に判定する。
      1.  形質細胞腫
      2.  血清中M蛋白量
      3.  尿中BJ蛋白の一日量
      4.  骨病変

     
    著効
    (CR)

    判定対象病変(形質細胞腫、血清M蛋白、尿中BJ蛋白)の消失と骨病変の治癒が認められ、4週以上持続した場合
    (なおM蛋白の消失は免疫固定法により確認する)

    有効
    (PR)

    下記の1項目以上満たし、それらが4週以上持続するとともに、この間他項目の増悪および新病変が認められない場合

    1. 形質細胞腫の大きさが50%以上(一方向のみでは30%以上)縮小する
    2. 血清中M蛋白が治療前の50%以下に減少する
    3. 尿中BJPが治療前の50%以下に減少する
    4. 骨病変がX腺写真上治癒傾向(改善)を示す

    やや有効
    (MR)

    下記の1項目以上を満たし他項目の増悪及び新病変の出現が4週以上みられない場合
    1. 形質細胞腫が25%以上50%未満に縮小するか、それ以上縮小しても持続期間が4週に満たない
    2. 血清中M蛋白量、尿中BJP量が治療前値の25%〜50%減少するか、50%以上減少しても持続期間が4週に満たない

    憎悪
    (PD)

    形質細胞腫の明かな増大、あるいは血清中M蛋白、尿中BJPの増加が認められるか、新病変が出現した場合

    不変
    (NC)

    形質細胞腫の縮少および血清中M蛋白、尿中BJPの減少はMRの基準を満たさないが、新病変の出現が4週以上みられない場合