急性GVHD

急性GVHDの定義

  1. 同種造血幹細胞移植後早期に見られる皮疹・黄疸・下痢を特徴とする症候群で、移植片の宿主に対する免疫学的反応によるものと定義される。
  2. 診断基準
    1. 皮膚・肝・消化管の少なくとも一臓器の障害が存在し、かつ、GVHD類似の他の  疾患が否定されること。
    2. ここで、臓器の障害とは下記のstage I以上の障害が、移植後100日以内にみられ、少なくとも48時間にわたり持続するものをさす。
    3. 病変部位の病理学的診断は可能な限り実施する。特に一臓器のみの場合、あるいは他疾患との鑑別困難の場合は病理学的診断は不可能である。
  3. 鑑別診断
    移植前治療あるいは移植後の免疫抑制剤等薬剤や各種感染症によりひきおこされる種々の臓器障害との鑑別診断は重要である。(資料1)これらの疾患は急性GVHDと同時に存在することも多く、臨床的に鑑別が困難な場合もしばしばみられる。Thrombotic microangiopathy (TMA)とveno-oc-clusive disease of the liver (VOD)については診断基準を資料2、3に示した。 

重症度

  1. 種々の分類法であるが、臨床的評価の統一化を図る目的で現時点では、下記に示す分類法を用いるのが妥当である。この分類法は、1994年開かれた急性GVHDのgradingに関するconsensus conferenceにおいて提案され、従来のGlucksbergによる分類法を一部変更したものである。生検による病理学的病変が証明された上部消化管のGVHDをstage1の消化管障害とすること、非免疫学的障害が合併しているときは当該臓器障害のstageを一つ落とすことが明記された。
  2.  現段階で薦められる急性GVHD重症度分類
    1. [臓器障害のstage]

      皮膚
      消化管
      stage
      皮疹 (%)
      総ビリルビン
      (mg/dl)
      下痢 (ml/day)
      1
      <25
      2.0-2.9
      500-1000
      または持続する嘔気
      2
      25-50
      3.0-5.9
      1000-1500
      3
      >50
      6.0-14.9
      > 1500
      4
      全身性紅皮症(水疱形成)
      ≧15.0
      高度の腹痛・出血
      (腸閉塞)
  3. ビリルビン上昇、下痢、皮疹を引き起こす他の疾患が合併すると考えられる場合はstageを1つ落とし、疾患名を明記する。複数の合併症が存在したり、急性GVHDの関与が低いと考えられる場合は主治医判断でstageを2-3落としても良い。
  4. 火傷における"rule of nines"(成人)、"rule of fives"(乳幼児・小児)を適応。
  5. 3日間の平均下痢量。小児の場合はml/m2とする。
  6. 胃・十二指腸の組織学的証明が必要。
  7. 消化管GVHDのstage 4は、3日間平均下痢量>1500mlでかつ、腹痛または出血(visible blood)を伴う場合を指し、腸閉塞の有無は問わないこととする。

    [急性GVHDのgrade]

    皮膚

    消化管
    Grade
    stage

    stage

    stage
    1-2

    0

    0
    3
    or
    1
    or
    1
    -

    2-3
    or
    2-4
    4
    or
    4

    -
    注1 PSが極端に悪い場合(PS4、またはKarnofsky score < 30%)、臓器障害がstage 4に達しなくともgrade ・とする。GVHD以外の病変が合併し、そのために全身状態が悪化する場合、判定は容易ではないが、急性GVHD関連病変によるPSを対象とする。
    注2 "or"は、各臓器障害のstageのうち、一つでも満たしていればそのgradeとするという意味である。
    注3 "-"は、skinの場合、stageが0, 1, 2, 3の範囲で何であっても構わないという意味で、例えば、肝障害がstage 2, 3ならば自動的にgrade ・となる。つまり皮膚障害の程度はgrade ・を規定しない。同様に腸管の場合は、障害の程度が何であれgrade ・には関与せず、たとえstage 4でも皮膚または肝にstage 4病変がない限り、grade ・とは判断されない。

  8. 移植後の各時点での各臓器障害が刻々変化するため、重症度の最終的判定は、移植後100日以内の最高重症度とする。
  9. 急性GVHDが臨床症状に基づく症候群であるがゆえに、現在の診断と重症度判定に存在する問題点を十分ふまえたうえで、慎重に診断することが望まれる。従って、単にover-allな重症度を記載するにとどまらず、各症例ごとに臓器障害のstage、その他の臨床症状、考えられる鑑別診断、治療に対する反応性などを記録しておくべきである。特に急性GVHDをend-pointとする臨床研究の場合は重要である。
  10. Grucksberg以外の重症度分類を資料5に示す。
  11. 急性GVHD以外の移植後合併症もすべて含めた臓器障害の重症度も提唱されている。スコア化がなされており、皮膚・肝・消化管臓器障害の程度を表すのに適しているが、急性GVHDの重症度分類と混同しやすいので注意を要する。

治療

  1. 十分な免疫抑制剤の予防的投与にもかかわらず、ある一定の比率で急性GVHDが発症する。ただし、すべての発症例に対して治療をしなければならないわけではなく、軽症例では自然寛解もあり、治療薬剤による副作用も考慮しなくてはならない。一方、治療開始時期が遅れることにより、急性GVHDおよびその関連病変が悪化し、予後不良に陥ることもしばしばである。
  2. primary treatment
    急性GVHDの治療適応は原則として重症度stage・以上が対象となるが、以下に述べる種々の臨床的所見を総合的に判断して決定する。
    1. 重症度がgrade・でも治療開始を考慮する場合
      1. 急性GVHDに対するGVHD予防が、薬剤の副作用や使用禁忌のため十分になされていない症例。
      2. HLA遺伝子的不適合移植や非血縁者間移植の場合など、急性GVHDが重症化しやすいと考えられる症例。
      3. 急性GVHDが移植後早期に発症した例。
      4. GVHDに関連する発熱を伴う症例。
      5. GVHDに関する諸症状が急速(24時間以内)に悪化する症例。
    2. 重症度grade・でも治療開始を躊躇する場合
      1. HLA遺伝的適合例で、比較的軽度で安定した臨床所見(たとえば、非進行性の皮膚所見のみの場合や、総ビリルビンが2.0-3.0mg/dl、あるいは下痢量が500-1000mlで非進行性の場合)を呈する症例。
      2. 合併している他の疾患の関与が大きいと判断される症例。
    3. 治療薬剤
      予防法の違いを考慮する必要があるが、大多数の施設において、初期治療薬としては副腎皮質ステロイド剤が一般的である。急性GVHD予防薬(たとえばシクロスポリン)は続行する。ステロイド剤をGVHD予防の目的で投与している場合には、増量、あるいは、secondary treatmentへの移行が選択肢となる。
    4. ステロイド剤の使用法:mPSLあるいはPSL1-2mg/kg/dayを1日2分割で開始する。原則として2週間投与し、以後、治療効果と臨床症状にあわせて、原則的に5日毎に0.2mg/kgずつ減量する。より高用量のステロイド剤は感染症頻度が高くなり、治療成績は不良と考えられているが、急性GVHDそのものに対する有効性は高いとする報告がある。ステロイド剤の投与期間の長短による感染症頻度は差がないとの報告がある。
    5. 治療効果:初期治療によりPR以上の有効性がえられるのはgrade・以上の急性GVHDのうち24-49%と報告されており、非血縁者間移植例では無効が多い
  3. secondary treatment
    1. 初期治療の効果判定は、一般的に治療開始後2-3週間以内の臓器障害の改善の有無によりなされる。また一旦改善した障害がステロイド剤の減量中に再度出現する場合もある。ここでは、secondary treatmentを初期治療不応例や再燃例に対して施行される治療と定義する。不十分なprimary treatmentあるいはステロイド剤の早すぎる減量に起因する場合は含まれない。
    2. 標準的なsecondary treatmentの治療適応を示す。
      1. 治療開始3日以降の病状悪化。
      2. 治療開始7日目の時点で、不変。
        (特に肝と腸管のstage3以上の臓器障害)
      3. 治療開始14日目の時点で、効果不十分。
        (特に肝と腸管のstage2以上の臓器障害)
      4. ステロイド剤減量中の場合は、それぞれ3、7、14日間の観察期間をもって判定する。
    3. 治療法
      ステロイド剤減量中の場合、まずステロイドの再増量(1-2mg/kg/day)、病状悪化の場合、すみやかに以下の治療に移行する。
      1. ステロイドパルス療法
        10-20mg/kgのmPSLを3-5日間投与し、以後漸滅する方法で、日本でのsecondary treatmentの第1選択となっている。しかしまとまった成績がない。TMAや重症感染症を招くおそれがあり、適応には十分根拠が必要である。欧米では、二次治療として2-4mg/kg/dayのmPSLを使用することが多い。
        本療法に抵抗性の場合は、次の治療(tertiary treatment)に移行するか、あるいは鑑別を要する他の疾患の可能性を再検討する。ステロイド剤を予防法に使用していた場合は効果が薄い。
      2. ATG
        ウマATG(リンフォグロブリン)10-15mg/kgあるいはウサギATG(サイモグロブリン)1.25-2.5mg/kg 5-6日間連日あるいは隔日投与が推奨される。ステロイド抵抗性の場合の最終手段(tertiary treatment)と考えられているが、もっと早い段階での治療の評価にはprospective studyが必要である。
      3. FK506
        予防時と同様に0.02-0.03mg/kg/dayの持続点滴あるいは0.15mg/kg/day経口投与。まだ十分な臨床経験はなく、現時点での評価は定まっていない。

治療効果判定基準

  1. 急性GVHD以外の病変が合併しないときは比較的容易であるが、合併症存在時は急性GVHDによる臓器障害の改善度を判定する必要がある。臓器別判定と総合的評価判定(over-all response category)がアリ、ここでは代表的なものを示す。治療効果を経過を振り返って判定するover all的な基準であり、治療法の比較検討をする場合に有用である。治療経過中の臨床像を各臓器障害のstageの変化で表し、個別に評価する方法も参考になる。
    1. 各臓器別効果判定:以下の基準に従って判定する。
      1. complete response (CR):障害の消失
      2. partial response (PR):
        障害の軽減;皮膚(体表の25%以上の皮疹の消退)、肝(2-4mg/dlの場合:2mg/dl以下、4-8mg/dlの場合:2mg/dl以上の減少、8mg/dl以上の場合:25%以上の現象)、下痢(消失または3日間の平均下痢量が500ml以上減少あるいは、腹痛・下血の消失)
        障害の再燃;一旦消失した障害の再出現。この時、PSLなどの治療薬の早すぎる減量による場合は含まない。
      3. progression (PG):上記の逆
      4. no change (NG):上記以内の変動
      5. unevaluable (UE):
        no involvement(治療中に該当臓器障害が見られなかった場合)、early death(治療開始後3日以内に死亡)、 other complication(急性GVHD以外の合併症が主体のため評価できない場合)、data missing(記載なく不明の場合)、その他

       

    2. 治療効果総合判定(overall response category ):以下の基準に従って判定する。
      1. complete response(CR):
        急性GVHDによるすべての臓器障害が消失(CR)し、かつ、再燃などに対する追加治療を必要としない場合
      2. Partial response(PR)
        少なくとも一臓器の障害が改善(CRまたはPR)し、他の臓器障害が悪化(PG)しない場合。または、すべての臓器が一旦改善(CRまたはPR)したが、再燃などのため追加治療を必要とした場合(ステロイド剤の早すぎる減量や不十分な初期治療による場合をのぞく)
      3. Mixed response(MR)
        少なくとも一臓器の障害が改善(CRまたはPR)したが、他の臓器障害が悪化(PG)した場合
      4. Progression
        少なくとも一臓器の障害が悪化(PG)し、他の臓器障害の改善が見られない(NCまたはPG)場合
      5. No chane(NC)
        いずれの臓器障害において、改善も悪化もみられない場合
      6. Unevaluable(UE)
        すべての臓器別障害の治療反応性がUEの場合