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教室紹介

■呼吸器内科グループ

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1. 肺がん・胸部悪性腫瘍の研究

肺がんは様々な癌腫の中で死亡原因の1位であり、その正確な診断や治療法の開発は急務である。当グループでは、得意分野である気管支鏡による肺がんの診断精度の向上や、本学高エネルギー医学研究センターと共同し最先端のPET/MRI画像による肺癌の診断や治療効果判定の開発、肺がんの薬物療法の臨床研究などを通して肺がん診療の向上に寄与すべく研究を行っている。

1-1. FDG-PET/MRIを用いた研究

FDG-PETは現在がん診療において頻用されているが、肺癌領域において現在保険適応となっているのは病期診断および再発診断であり、良悪性の診断や治療効果判定には応用できない。
一方、胸部病変の診断に対する MRI の有用性は、近年、拡散強調画像や STIR 像などの撮像シークエンスの改良によりその有用性は高まっている。当グループでも 肺癌診療におけるMRI の有用性に関する臨床的研究を行ってきた(Morikawa M, et al. J Nucl Med. 2009. Tsuchida T, et al. J Magn Reson Imaging. 2013)。
一般的に使用されるPETスキャナーはPET/CT装置であるが、2015年に本学高エネルギー医学研究センターに、統合型 PET/MRI 装置が導入されている。CTに比べMRIは空間解像能に劣るが、拡散強調画像やSTIR画像を用いることで病変からの機能情報を得ることができる。PETで収集される糖代謝情報との組み合わせにより、多角的に病変の特徴を捉えることが可能となる。
当科では、2015年末に保険適応が非小細胞肺癌に追加された 免疫チェックポイント阻害剤の一種であるPD-1 抗体の効果を、FDG-PET/MRI を用いてFDG集積とMRI画像でのADC値の変化によりその治療効果を予測できることを報告した(Umeda Y, et al. J Immunother Cancer. 2020)。引き続きPET/MRI装置を用いた臨床研究を継続する予定である。

1-2. 新しいトレーサーを用いたPETによる肺癌診断への応用

がんの診断において一般的に用いられているFDG に加え、新しいトレーサーを用いた検査法の開発を本学の高エネルギー医学研究センターと共同で行っている。
3’-deoxy-3’-18F-fluoro-thymidine(FLT)は Thymidine の analogue であり Thymidine kinese-1 によりリン酸化されて細胞内に取り込まれるが、DNAには組み込まれない。肺癌を含むいくつかの癌腫において、FLT の集積度と細胞増殖を示す Ki67 陽性細胞の割合が相関することが報告されており細胞増殖のマーカーとして考えられている。
腫瘍増殖能の評価に有用である可能性があり、FLT-PET/MRIを用い非小細胞肺癌に対する免疫チェックポイント阻害剤(PD-1抗体製剤)の治療効果予測を早期に実現可能である可能性があることを報告した(Sato M, et al. J Immunother Cancer. 2021)。 さらに、がん化学療法の最も重大な副作用は血液毒性であるが、我々は治療前の骨髄細胞の増殖能をFLT集積で評価し、化学療法による血液毒性の重症度との関連を検討し報告している(Umeda Y, et al. Eur Radiol. 2019)。
今後は、FLTによる腫瘍の増殖のみならず、腫瘍免疫細胞の増殖の評価をPET/MRI画像と、末梢血単核球のフローサイトメトリー法による評価で同時に行い、腫瘍免疫の評価を多角的に行う研究を進めていく予定である。

1-3. 肺がんの気管支鏡診断の研究

当院では仮想気管支鏡(VBN: Virtual Bronchoscopic Navigation)システム、極細径気管支鏡、ガイドシース気管支腔内超音波断層法(EBUS-GS)システム、超音波気管支鏡ガイド下針生検システム(EBUS-TBNA)、経食道的気管支鏡下穿刺吸引生検法(endoscopic ultrasound with bronchoscope-guided fine-needle aspiration;EUS-B-FNA)等を導入し、それら新しいデバイスの有用性を検討している。
また、近年発達してきた EBUS-GS 法や VBN を使用しても、診断困難な末梢型肺癌は存在する。EBUS-GS 法は、デバイスが病変内に到達したことを確認する優れた方法であるが、気管支内腔に腫瘍が進展していない場合、診断率が低下することが予想される。そこで、気管支鏡検査前に行われた CT や PET 画像などをもとに、診断率を予測する因子を評価し報告した(Umeda Y, et al. Lung Cancer. 2014)。全身状態の悪い症例に対しても、安全に実施可能なEUS-B-FNAの有用性と安全性に関する前向き研究を実施し、現在論文投稿中である。さらに現在実施中の試験として、近年進行肺癌の治療方針決定に重要な次世代シーケンサーを用いた遺伝子変異解析が、EUS-B-FNAを用いた検体で適切に実施可能か症例集積を継続している。

1-4. 肺がんの薬物療法の臨床研究

肺がんの薬物療法の開発は日進月歩で進んでいるが、2次治療以降の薬剤の開発は滞っている状態である。当科及び福井赤十字病院、市立敦賀病院との共同研究で、医師主導臨床研究として非小細胞肺癌の2次治療薬としてnab-パクリタキセルの有用性を検討する前向き第Ⅱ相試験を実施し、これまでの標準治療であるドセタキセルと比べて効果が高い可能性を報告した(Anzai M, et al. Medicine. 2017)。この先行研究の結果は、全国規模のランダム化第Ⅲ相試験(J-AXEL試験. Yoneshima Y, et al. J Thorac Oncol. 2021)で証明された。
さらに、近年広く応用されるようになった免疫チェックポイント阻害剤の後治療で行われる抗がん剤治療が有効である可能性が後方視的検討で多く報告されていたが、前向き試験で証明した報告はなかった。我々の研究グループは、第Ⅱ相試験として進行非小細胞肺癌に対し免疫チェックポイント阻害剤を使用直後のnab-パクリタキセル単剤療法の有効性と安全性の検証を行い、有効性の改善と有害事象の増加がないことを報告した(Sonoda T, et al. Cancer Med. 2023)。また、小細胞肺がんでも1次治療として白金併用化学療法に免疫チェックポイント阻害剤の併用療法が標準療法となっており、2次治療としてのイリノテカンを用いた前向き第Ⅱ相試験を実施し検証中である。

1-5. 肺癌と悪性胸膜中皮腫に関する病理学研究

本学腫瘍病理学 小林基弘教授の指導を受けて、研究生の中嶋は抗糖鎖抗体を用いた悪性胸膜中皮腫および肺腺癌の糖鎖構造と機能の解析 に関する研究を行っている。悪性胸膜中皮腫を診断するためには、複数の診断マーカーを用いなければならない。しかし、実臨床においては、患者の全身状態や呼吸状態不良により、外科的生検が困難で、針生検等で微小検体しか採取できないこともしばしばある。私たちは、抗糖鎖抗体S1が悪性胸膜中皮腫に高率に染色されることを発見し、報告)した(Nakashima, et al. Lung 2022)。今後、S1が認識しているエピトープのさらなる解析を進めることで、悪性胸膜中皮腫に特異的な診断マーカーの開発につながり、低侵襲な検査手技での診断が可能になることを期待している。また、肺腺癌に発現する糖鎖の違いを検討し、治療効果を解析することでレジメン選択の一助になる可能性がある。

2. FDG-PETの呼吸器疾患診断への臨床応用

FDG-PETは多くの癌腫において応用されているが、この検査法の大きな問題点の一つは炎症性疾患においても集積することである。我々は炎症性疾患においてFDG集積が亢進することを用いて研究を進めてきた。良性疾患では、FDG投与後1時間で病変部のFDG集積が最大となり以降不変か減少することが報告されていたが、我々は間質性肺炎やサルコイドーシスなどの炎症性疾患や肉芽腫性疾患では、病勢の強い部分では1時間後より3時間後で集積が亢進することを報告してきた(Umeda Y, et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2009, Umeda Y, et al. Respirology. 2011)。さらに、間質性肺炎の中でも予後不良な特発性肺線維症の生命予後評価における Dual-time-point FDG-PET 画像の有用性を報告した(Umeda Y, et al. J Nucl Med. 2015)。

3. びまん性肺疾患の研究

びまん性肺疾患とは病変が両側の肺に広範に広がる病気の総称である。その中でも間質が病変の主座となる間質性肺疾患は、特発性肺線維症(IPF)に代表される特発性間質性肺炎や膠原病関連肺疾患、過敏性肺炎、薬剤性肺疾患、リンパ増殖疾患、放射線関連肺疾患、サルコイドーシス、など多岐に広がる疾患群である。治療もステロイドホルモンや免疫抑制薬に代表される抗炎症薬と抗線維化薬の組み合わせによって行われるが、まだまだ分かっていないことも多い。近年新薬の研究も進んできており今後の発展が期待される分野である。

3-1. 筋炎関連間質性肺疾患の画像における検討

皮膚筋炎・多発性筋炎は強皮症、関節リウマチと並んで間質性肺疾患をきたす膠原病である。筋炎関連間質性肺疾患に関しては、最近抗ARS抗体、抗MDA5抗体が簡単に測定できるようになったが、抗ARS抗体症候群はステロイドや免疫抑制薬などが効果的だと言われている一方、抗MDA5抗体陽性間質性肺疾患は急速進行性となる可能性が高いため、速やかにしっかりとした治療を行う必要がある。これらの疾患を診断するためにはまず画像を見てそれらの疾患を疑うことが大切である。これまでに抗ARS抗体症候群における画像の特徴(Waseda Y, et al. European Journal of Radiology. 2016)、抗MDA5抗体陽性間質性肺炎の画像の特徴(Waseda Y, et al. Mod Rheumatol. 2022)を報告し、早期診断、早期加療についての必要性について検討している。

3-2. 気管支肺胞洗浄液における細胞の形態学的評価

間質性肺疾患の診断に使用する検査法の一つに気管支肺胞洗浄(BAL)がある。これは従来より行われてきた、生理食塩水にて肺胞を洗浄した液を回収して細胞を分析する手法である。一方で、分析の方法は施設ごとに評価方法が異なっており、統一された方法がない。また、BAL細胞分画の診断に対しても現在保険適応がなく、共通した教育システムもなく、BALを評価している呼吸器内科医も先輩から代々指導を受けて診断しているのが現状である。そもそも呼吸器内科医がBALの評価を行なっている施設そのものが少なくなっており、我々は現在BALの分析方法を統一し、また細胞の正しい診断を行うことに取り組み、世界での診断の統一を目指している。正しい形態学的評価を行うことで、ゆくゆくはBALの診断のAI化の実現を目指している。

3-3. Webシステムを用いた間質性肺疾患に対する胸部放射線科医、胸部病理医をはじめとした専門家との集学的検討(MDD)による、呼吸器内科医師の診断力向上への取り組み

間質性肺疾患は診断に際し、問診、他覚所見、血液検査、生理学的検査、画像学的評価が必要であるが、それらに加えて、可能な方には気管支鏡にて気管支肺胞洗浄(BAL)と病理学的検査としてクライオバイオプシー(TBLC)を行っている。さらに診断のために必要であれば呼吸器外科に依頼し外科的肺生検(SLB)を行って頂いている。当科ではそれらのデータを匿名化しバーチャル化した上で、Webシステムを用いて我々呼吸器内科医に加えて、全国の専門の放射線科医、病理医、時に膠原病内科医、皮膚科医などによる集学的検討(MDD)にて診断と治療方針決定を行なっている。時間の経過とともにMDDを何度も繰り返し、診断や治療法が正しいかどうかを見直しながらより確実な診断と治療に結びつけている。
Webを使用すると、地方にいながら中央レベルのディスカッションが行え、また症例によっては膠原病医や皮膚科医も参加いただくことによりさらにレベルの高いディスカッションを行うことが出来る。これらの取り組みを行う上で、従来通りの画像の読影や病理の診断を見て呼吸器内科医のみで診断する方法と比較して呼吸器内科医の診断のレベルが向上しているのかどうかを客観的に検討している。

3-4. IgG4関連肺疾患の病態形成に関与するTh2サイトカイン阻害の影響

IgG4関連疾患は、血清IgG4高値、病変組織へのIgG4陽性細胞浸潤および線維化を特徴とする新規の全身性疾患である。その病態としてはTh2優位のサイトカイン産生とともに、IL-10、TGF-β等のサイトカイン産生を認めることが判明している。これまでに金沢大学と富山大学と共同で研究しているLAT Y136F変異マウスの肺病変がIgG4関連呼吸器疾患と類似な病態を示すことを見出した(Waseda Y, et al. PLos One 2021)。近年、獲得免疫を介さずにTh2サイトカインを産出する新しいリンパ球である2型自然リンパ球(ILC2)の存在が明らかになり、それがIL-25やIL-33、thymic stromal lymphopoietin(TSLP)によって刺激されるとIL-5、IL-13の分泌を介して好酸球の増加や高IgE血症、さらにPD-1、PD-L1の作用によりTh2の増殖をもたらすと推定されている。現在、LAT Y136F変異マウスのTh1/Th2バランスの病態形成への影響、ILC2の役割とPD-1、PD-L1の関与の検討を行なっており、本疾患の発生機序の解明を行なっている。

4. 細胞外酸性の気道炎症へ及ぼす影響に関する研究

細胞外酸性の慢性気道炎症へ及ぼす影響に関して、細胞レベルでの機能解析を行っている。血液の酸塩基平衡は、厳格に pH 7.35〜7.45に保たれているが、気道炎症巣では細胞外環境が酸性へ傾くことが知られており、気管支喘息患者の気道炎症局所では pH が5.2まで低下することが報告されている。酸を感知するメカニズムとして知覚神経に存在するカプサイシン感受性 TRPV1 イオンチャンネル型受容体や ASIC(acid-sensing ion channel: 酸感受性イオンチャンネル) が知られていた。近年、脂質をリガンドとすると推定されていた三量体G蛋白質共役型受容体(GPCR)が細胞外のプロトン(H+)を感知し、活性化することが明らかにされてきた。現在までにプロトン感知性受容体として Ovarian cancer G-protein-coupled receptor 1(OGR1)、GPR4、T cell death-associated gene 8(TDAG8)、G2A の4種類の受容体が同定されている。
私たちは、群馬大学生体調節研究所と共同研究を進め、OGR1ノックアウトマウスの卵白アルブミン(OVA)感作による喘息モデルを解析した結果、野生型と比較してノックアウトマウスでは気道過敏性亢進、気道上皮の杯細胞化が減弱すること、気管支肺胞洗浄液中の好酸球数、Th2 サイトカインの低下が観察されることを明らかにした。一方で、気道構成細胞であるヒト気管支平滑筋細胞やヒト気道上皮細胞では、4種類のプロトン感知性受容体のうち OGR1 が主に発現しており、気管支平滑筋細胞では細胞外環境が酸性に傾くとプロトン刺激によって OGR1 が活性化し、IL-6、IL-8 や CTGF(connective tissue growth factor)が産生されることを発見した。また、コバルト、ニッケルなど一部の金属はOGR1のリガンドとして作用することや、プロトンや金属刺激によるサイトカイン産生はグルココルチコイドによって抑制されることを最近報告した(Kadowaki M, et al. J Inflamm(Lond)2019, J Inflamm Res 2021)。これらの結果から、気管支喘息、COPD などの炎症性呼吸器疾患において、気管支平滑筋は外界からの刺激によって、収縮、拡張し、気流制限に関与するだけではなく、OGR1 を介して、細胞外プロトンを感知し、気道炎症や気道リモデリングに関与しているものと思われる。現在、ヒト気道平滑筋細胞のサイトカイン、CTGF産生に対するステロイドの作用機序に関する研究を進めている。

5. 肺MAC症患者に対する滋陰至宝湯の効果に関する検討

非結核性抗酸菌症の中でもMAC症は日本人に多く、特に中年の女性に多いと言われている疾患である。自覚症状なく症状増悪もなく経過観察のみとなっている患者もいるが、一部では増悪し治療を要する患者もいる。さらに同じMAC症でも同じ標準治療で改善する患者と増悪する患者の違いに関しては明確な検討はなされていない。さらに、本疾患患者は神経質で抑うつ傾向にある人が多い印象であるが、これに関しても正確な評価はなされていないのが現状である。滋陰至宝湯は体力が衰えている人の慢性咳嗽や痰、微熱が続く時に用いられる漢方薬であり、同時にイライラや不安感も改善する作用があると言われており、NK細胞活性を上げると言われている。そこで軽症肺MAC症の患者に滋陰至宝湯を投与することにより、理学所見や画像がどう変化するかに関して解析を行い、その有用性について検討を行なっている(大学院生山口により論文投稿中)。

6. その他の臨床研究

肺癌化学療法に関する医師主導型臨床試験を進めている。さらに、肺癌の多施設共同臨床試験にも積極的に参加している。また、間質性肺疾患に対する治験や多施設共同研究にも複数参加している。今後、Endoscopic ultrasound with bronchoscope-guided fine-needle-aspiration(EUS-B-FNA)、気管支サーモプラスティ、クライオバイオプシーなどの気管支内視鏡に関する臨床研究をさらに進める予定である。


■内分泌・代謝内科グループ

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1. レニン-アンジオテンシン系遺伝子転写調節と細胞内シグナル伝達

レニン-アンジオテンシン系遺伝子のクローニングやACE遺伝子多型の発見と応用など、当該分野の国際的な第一人者である、フランス国立医学研究所 College de France の Corvol 教授を中心としたグループとの共同研究を通じ、ヒトレニン遺伝子転写調節機序解析による知見など、Kidney Int, Biochem J, J Cell Biochem 等7本の full paper を発表した。これらの知見に基づき、発展的な研究を展開している。その成績は、J Hypertens 2010, Curr Hypertens Rep 2011, Int J Cardiol 2013, Medicine 2014, PLoS One 2015, Biosci Rep 2016 等に掲載された。

2. 網羅的遺伝子解析に基づいた高血圧/糖尿病関連遺伝子のトランスレーショナルリサーチ

ポストミレニアムプロジェクトである「ゲノム情報を活用した糖尿病の先駆的診断・治療法の開発研究」(独立行政法人医薬基盤研究所 保健医療分野における基礎研究推進事業研究プロジェクト、総括国立国際医療センター加藤規弘部長)に参加し、組織遺伝子発現の評価やゲノム薬理学としてのARBの効果を解析した。またDNAチップを用いた網羅的トランスクリプトーム解析から、糖尿病/高血圧を識別しうる比較的明確なクラスターを得て、オントロジー解析、パスウエイ解析から angiotensin II 消去系全般の発現低下が示唆され、real-time PCR 法での解析を完了した。この高血圧糖尿病関連遺伝子について、可溶部分に対し抗体を設定し測定系を構築した(文部科学省科学研究費補助金 基盤研究)。これらの成果は Endocrinology 2007, Diabetes Care 2007, 2009 等に掲載された。

3. 遺伝的体質に基づいたテーラーメイド医療

ゲノムコホート研究の多施設共同研究体制(G-DOC Study、UMIN-CTR 第1,580号)を整え、遺伝的体質(遺伝子多型)と心筋梗塞、脳卒中、透析導入等各種臓器寿命、生命寿命を解析している。最近では、1,000例規模のCKDにおいて、レニン-アンジオテンシン系の主要遺伝子型とハードエンドポイントとしての腎死の関係を解析し、レニン遺伝子で累積腎生存率に有意な差異があるという成績を得ている。これらの成績により Am J Kid Dis 等8本のfull paperを発表した。特に近年では、糖尿病の発症にアルドステロン合成酵素遺伝子が関与する成績も得られ、Acta Diabetol 2014 に掲載された。

4. 子癇前症の早期診断に関連する諸因子に及ぼすHIV感染の影響

日本学術振興会二国間交流事業協同研究「子癇前症(妊娠高血圧腎症)の早期診断に関連する諸因子に及ぼすHIV感染の影響」(科学技術振興機構 戦略的国際科学技術協力推進事業)を、南アフリカ共和国のクワズルナタール大学と実施し、約600例の解析を完了した。その成績は、Eur J Obst Gyneiol Reprod Biol に掲載予定である。

5. “脂肪心筋”の病態生理と治療法の探索

肥満症や糖尿病患者の心筋は、細胞内に脂肪滴が蓄積する“脂肪心筋"となり易く、これが様々な心機能障害をきたす。しかしながら、その詳細なメカニズムは解明されていない。我々は、脂肪滴表面に局在するタンパクである Perilipin(PLIN)ファミリーや、代謝制御転写因子 PPAR-α、C/EBP-β に着目し、それらの過剰発現/欠損マウスを用いて、脂肪毒性が心筋障害を発生する病態生理を解析している。近年、PLIN2 による脂肪蓄積が心房細動を誘発することを発見し、報告した。現在そのメカニズムに関する研究を進めている。また、Adipose-triglyceride lipase (ATGL) 欠損症をはじめとする中性脂質蓄積症に対する治療戦略を探索するため、ATGL欠損マウス、HSL過剰発現マウス等を用いて研究を行い、成果を世界に向けて発信している。

6. 心臓のケトン代謝と機能異常に関する研究

ヒトの心臓は1日およそ7トンの血液を循環させるポンプの役割を果たしており、そのために必要なエネルギーの多くが、ミトコンドリア内で行われた脂肪酸のβ酸化により作り出された ATP である。このエネルギー代謝が障害されると、機能異常を引き起こすことが知られている。ケトン体は絶食時などで血中に増加する物質で、心臓でエネルギーとして利用される。現在 HMGCS2 というケトン体を合成する律速酵素の過剰発現モデルを作成し、ケトン代謝や心機能に与える影響を検討している。今後の研究の成果により、エネルギー代謝の面からの心機能異常の病態解明や治療方法の開発につながることを期待している。

7. 糖尿病管理に関する臨床研究

糖尿病に伴う血管障害の抑制には、食後高血糖の管理が重要である。我々は、糖尿病患者における血糖値の正常化を目指した臨床研究を遂行している。近年内分泌代謝内科に入院し、インスリン治療を行った患者のサーベイの結果、一見コントロール良好に見える患者の約8割が、食後1時間の血糖管理が不十分なことが判明した。現在、食後血糖値の管理と血管合併症の効果的な抑制法について探索している。また、近年話題となっているインクレチン関連薬を使用し、血糖変動に与える影響について臨床研究を行っている。さらに、持続血糖モニタリングシステムを応用した、新たな糖尿病管理を模索している。

8. 高尿酸血症に関する臨床研究

高尿酸血症はメタボリック症候群症例に高率に合併し、かねてより心血管疾患や腎機能障害との関連が指摘されている。そこで我々は生活習慣病における高尿酸血症の意義について、遺伝的体質に基づいた高血圧や糖尿病との関連解析や高尿酸血症の治療状況等について解析を進めている。

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福井大学医学部第三内科
福井大学医学部
病態制御医学講座 内科学(3)

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