対象疾患の手引き(医療機関向け) <PDF>

  タンデムマス・スクリーニングの対象疾患について、その概要を説明してあります。
  再採血や精密検査が必要とされる新生児について連絡があった時に、説明文を参照して、
  ご家族に説明をお願いします。PDFファイルをダウンロードしてご使用下さい。

[A]有機酸代謝異常症
 「有機酸」とは、アミノ酸などからエネルギーを産生する代謝経路における中間代謝物です。「有機酸代謝異常症(有機酸血症)」とは、これらの代謝経路に関わる酵素の先天性障害のため、「有機酸」が代謝されず体に蓄積し、脳障害などを来す疾患群です。感染症罹患時に、低血糖などの代謝障害を来たし突然死することもあります。有機酸の蓄積を防ぐため、食事のたんぱく質を最小限に抑え、カロリーを充分に摂るようにし、さらに、有機酸を解毒するカルニチンという薬剤を使うのが典型的な治療法です。

[1] プロピオン酸血症
 1)原因:バリン、イソロイシンなどのアミノ酸の代謝経路でプロピオニルCoAを代謝する酵素[プロピオニルCoAカルボキシラーゼ]の遺伝子変異が原因です。蓄積したプロピオニルCoAは、体内でプロピオン酸やプロピオニルカルニチンに変化します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:プロピオニルカルニチン(C3)増加と、アセチルカルニチンに対する比(C3/C2)の上昇で判定。尿の有機酸分析、酵素活性測定、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約5万人に1人の頻度で見つかっています。そのほとんどが軽症のタイプで、重症型のタイプの頻度は50万人に1人程度と考えられています。
 4)症状:軽症〜中等症の患児では、脳障害が徐々に進み、乳児期以降に発達の遅れやけいれんなどがみられますが、早期治療により発症を防ぐことが出来ます。重症の患児では、生後間もなくから有機酸が著しく蓄積し酸血症となり、呼吸障害や意識障害などの重篤な状態を呈します。
 5)治療:治療用特殊ミルクを使用して食事のたんぱく質中の関連アミノ酸を制限し、カロリーを充分に補給し、有機酸を解毒するカルニチンという薬剤を使って治療します。感染症罹患により食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。重症児の酸血症に対しては、血液透析などの特別の治療が必要ですが、十分な効果が得られない場合もあります。

[2] メチルマロン酸尿症
 1)原因:バリン、イソロイシンなどのアミノ酸の代謝経路でメチルマロニルCoAを代謝する酵素[メチルマロニルCoAムターゼ]の遺伝子変異が主な原因です。蓄積したメチルマロニルCoAは、体内でメチルマロン酸やプロピオニルカルニチンに変化します。 この酵素は、ビタミンB12が補酵素であり、ビタミンB12の代謝障害が原因である場合もあります。
 2)スクリーニング指標と精密検査:プロピオニルカルニチン(C3)増加と、アセチルカルニチンに対する比(C3/C2)の上昇で判定。 尿の有機酸分析、酵素活性測定、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約12万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:軽症〜中等症の患児では、脳障害が徐々に進み、乳児期以降に発達の遅れやけいれんなどがみられますが、早期治療により発症を防ぐことが出来ます。また、腎障害が徐々に進行します。生後間もなくから有機酸が著しく蓄積し酸血症となり、呼吸障害や意識障害などの重篤な状態を呈します。
 5)治療:治療用特殊ミルクを使用して食事のたんぱく質中の関連アミノ酸を制限し、カロリーを充分に補給し、有機酸を解毒するカルニチンという薬剤を使って治療します。感染症罹患により食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。重症患児の酸血症や高アンモニア血症に対しては、血液透析などの特別の治療が必要ですが、十分な効果が得られない場合もあります。 酵素障害のタイプによっては、あるいはビタミンB12の代謝障害が原因である場合は、大量のビタミンB12治療により症状が改善します。

[3] グルタル酸血症I型
 1)原因:リジン、トリプトファンなどのアミノ酸の代謝経路でグルタリルCoAを代謝する酵素[グルタリルCoA脱水素酵素]の遺伝子変異が原因です。蓄積したグルタリルCoAは、体内でグルタル酸やグルタリルカルニチンに変化します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:グルタリルカルニチン(C5-DC)の上昇で判定。 尿の有機酸分析、酵素活性測定、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約22万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状 乳幼児期の感染症罹患などを契機に大脳基底核病変を生じ、脳性麻痺に似た永続性の運動障害を来しますが、早期治療により発症を防ぐことが出来ます。
 5)治療 治療用特殊ミルクを使用して関連アミノ酸を制限する低蛋白食療法を行い、カロリーを充分に補給し、有機酸を解毒するカルニチンの薬剤を使って治療します。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[4] イソ吉草酸血症
 1)原因:ロイシン(アミノ酸)の代謝経路でイソバレリルCoAを代謝する酵素[イソバレリルCoA脱水素酵素]の遺伝子変異が原因です。蓄積したイソバレリルCoAは、体内でイソ吉草酸やイソバレリルカルニチンに変化します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:イソバレリルカルニチン(C5)の上昇で判定。 尿の有機酸分析、酵素活性測定、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約50万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:重症の患児では、生後間もなくから有機酸の急速な蓄積(酸血症)と高アンモニア血症により、呼吸障害、造血障害や意識障害などの重篤な状態になり、血液透析などの特別の治療が必要です。軽症〜中等症の患児では、乳児期以降、感染症罹患時などに“自家中毒”に似た嘔吐発作を繰り返します。どちらの病型でも、早期治療により脳障害を防ぐことが出来ます。イソ吉草酸は独特の足蒸れ様の臭いがしますので、発作時には特にこの臭気に気付かれます。
 5)治療:治療用特殊ミルクを使用してロイシンを制限する低蛋白食療法を行い、カロリーを充分に補給し、有機酸を解毒するカルニチンの薬剤を使って治療します。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[5]3-ヒドロキシ-3-メチルグルタル酸尿症
 1)原因:ロイシン(アミノ酸)の代謝経路で3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAを代謝する酵素[3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAリアーゼ]の遺伝子変異が原因です。蓄積した3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAは、体内で3-ヒドロキシ-3-メチルグルタル酸や3−ヒドロキシイソバレリルカルニチンに変化します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:3−ヒドロキシイソバレリルカルニチン(C5-OH)の上昇で判定。 尿の有機酸分析、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、まだ見つかっていません。約100万人に1人程度の非常に希な疾患と考えられます。
 4)症状:重症の患児では、生後間もなくから有機酸の急速な蓄積(酸血症)とともに低血糖や高アンモニア血症がみられ、呼吸障害や意識障害などの重篤な状態になり、血液透析などの特別の治療が必要です。軽症〜中等症の患児では、乳児期以降、感染症罹患時などに嘔吐と低ケトン性低血糖発作を繰り返します。どちらの病型でも、早期治療により脳障害を防ぐことが出来ます。
 5)治療:治療用特殊ミルクを使用してロイシンを制限する低蛋白食療法を行い、カロリーを充分に補給し、有機酸を解毒するカルニチンという薬剤を使って治療します。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[6] 複合カルボキシラーゼ欠損症
 1)原因:4種のカルボキシラーゼを合成する酵素[ホロカルボキシラーゼ合成酵素]あるいはビオチニダーゼの遺伝子変異が原因です。乳酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、プロピオン酸、3−ヒドロキシイソバレリルカルニチンなどが体内に蓄積します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:3−ヒドロキシイソバレリルカルニチン(C5-OH)の上昇で判定。 尿の有機酸分析、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約50万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:重症の患児では、生後間もなくから有機酸の急速な蓄積(酸血症)がみられ、呼吸障害や意識障害などの重篤な状態になり、血液透析などの特別の治療が必要で、びらん性皮疹も特徴です。軽症〜中等症の患児では、乳児期以降に嘔吐発作、びらん性皮疹、発達遅延を認めます。早期治療により脳障害を防ぐことが出来ます。
 5)治療:ビオチン大量投与によって治療します。ビオチンの効果が少ない場合は、プロピオン酸血症に準じ、治療用特殊ミルクを使用して関連アミノ酸を制限する低蛋白食療法を行い、カロリーを充分に補給し、有機酸を解毒するカルニチンの薬剤を使って治療します。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[7]3-メチルクロトニルグリシン尿症
 1)原因:ロイシン(アミノ酸)の代謝経路で3-メチルクロトニルCoAを代謝する酵素[3-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ]の遺伝子変異が原因です。蓄積した3-メチルクロトニルCoAは、体内で3-メチルクロトニルグリシンや3−ヒドロキシイソバレリルカルニチンに変化します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:3−ヒドロキシイソバレリルカルニチン(C5-OH)の上昇で判定。 尿の有機酸分析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約15万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:無治療の本症患者の多くが無症状か、軽度の神経症状・知的障害を示すのみとされています。新生児期にカルニチン欠乏に伴う軽度の高アンモニア血症が見られることがあります。乳児期以降、感染症罹患時などに“自家中毒”に似た嘔吐発作を繰り返し、低血糖、高アンモニア血症などにより意識障害や呼吸障害を来すとされています。
 5)治療:治療の必要性や効果については充分には明らかになっていませんが、乳児期には治療用特殊ミルクを使用してロイシンを制限する低蛋白食療法を行い、カロリーを充分に補給し、有機酸を解毒するカルニチンの薬剤を使って治療します。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[脂肪酸酸化異常症]
 通常の脂肪を体のエネルギー源として利用する代謝を“脂肪酸β酸化”といい、細胞のミトコンドリア内にこの代謝経路があります。脂肪酸β酸化に関係した酵素の障害のために、筋力低下や筋痛を来したり、乳幼児期に空腹時の低血糖のために突然死したりする疾患です。哺乳や食事の間隔があきすぎないようにしたり、中鎖脂肪酸を使ったりして治療します。

[1] カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-I(CPT-I)欠損症
 1)原因:脂肪酸をミトコンドリア内に取り込むために、脂肪酸をカルニチンと結合させアシルカルニチンをつくる酵素[カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-Ⅰ]の遺伝子変異が原因です。アシルカルニチンが減少し、遊離カルニチンが増加します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:[遊離カルニチン/長鎖アシルカルニチン]比(C0/(C16+C18))の上昇で判定。 酵素活性測定、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約30万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:新生児期から乳幼児期にかけて、空腹時、あるいは感染症罹患時などに低ケトン性低血糖により意識障害や痙攣などを繰り返し、脳障害や突然死を来します。早期治療により脳障害や突然死を防ぐことが出来ます。
 5)治療:哺乳や食事の間隔を長く開けないようにします。食事中の脂肪の割合を減らし、代わりに中鎖脂肪酸を含む脂肪(MCT)を加えます。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[2] カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-II(CPT-II)欠損症
 1)原因:ミトコンドリア内に取り込まれたアシルカルニチンからカルニチンを切り離す酵素[カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-Ⅱ]の遺伝子変異が原因です。アシルカルニチンが増加し、遊離カルニチンが減少します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:長鎖アシルカルニチン(C16)の上昇と[長鎖アシルカルニチン/アセチルカルニチン]比((C16+C18:1)/C2)の上昇で判定。 酵素活性測定、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約26万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:全身症状が出るタイプと、筋症状がでるタイプがあります。 全身症状が出るタイプでは、新生児期から乳幼児期にかけて、空腹時、あるいは感染症罹患時などに低ケトン性低血糖症により意識障害や痙攣などを繰り返し、脳障害や突然死を来します。心筋や骨格筋の障害も見られます。早期治療により脳障害や突然死を防ぐことが出来ます。 筋症状がでるタイプでは、思春期ころから筋力低下や筋痛といった症状、発作的に筋組織が崩壊する横紋筋融解症を繰り返します。
 5)治療:哺乳や食事の間隔を長く開けないようにします。食事中の脂肪の割合を減らし、代わりに中鎖脂肪酸を含む脂肪(MCT)を加えます。血液中の遊離カルニチンの減少に対しては、適宜カルニチンを服用させます。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[3] カルニチンアシルカルニチントランスロカーゼ欠損症
 1)原因:アシルカルニチンをミトコンドリア内に運び込む酵素[カルニチンアシルカルニチントランスロカーゼ]の遺伝子変異が原因です。アシルカルニチンが増加し、遊離カルニチンが減少します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:長鎖アシルカルニチン(C16)の上昇と[長鎖アシルカルニチン/アセチルカルニチン]比((C16+C18:1)/C2)の上昇で判定。 酵素活性測定、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングではまだ見つかっていません。非常に希な疾患と考えられます。
 4)症状:新生児期から乳幼児期にかけて、空腹時、あるいは感染症罹患時などに低ケトン性低血糖症により嘔吐、意識障害や痙攣などを繰り返し、脳障害や突然死を来します。心筋や骨格筋の障害も見られます。早期治療により脳障害や突然死を防ぐことが出来ます。
 5)治療:哺乳や食事の間隔を長く開けないようにします。食事中の脂肪の割合を減らし、代わりに中鎖脂肪酸を含む脂肪(MCT)を加えます。血液中の遊離カルニチンが減少している場合は、適宜カルニチンを補います。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[4] 極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症
 1)原因:ミトコンドリア内での脂肪酸β酸化において、長鎖の脂肪酸(アシルCoA)を処理する酵素[極長鎖アシルCoA脱水素酵素]の遺伝子変異が原因です。長鎖アシルカルニチンが増加します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:長鎖アシルカルニチン(C14:1)の上昇で判定。 酵素活性測定、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約16万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:新生児期から乳幼児期にかけて、空腹時、あるいは感染症罹患時などに低ケトン性低血糖症や高アンモニア血症により嘔吐、意識障害や痙攣などを繰り返し、脳障害や突然死を来します。心筋や骨格筋の障害も見られます。早期治療により脳障害や突然死を防ぐことが出来ます。心筋障害が急速に進行する重症型では、治療効果が充分でない場合があります。筋症状が主体のタイプでは、思春期ころから筋力低下や筋痛といった症状、発作的に筋組織が崩壊する横紋筋融解症を繰り返します。
 5)治療:哺乳や食事の間隔を長く開けないようにします。夜間の低血糖を防ぐ目的で、生コーンスターチを食べさせることもあります。食事中の脂肪の割合を減らし、代わりに中鎖脂肪酸を含む脂肪(MCT)を加えます。血液中の遊離カルニチンが減少している場合は、適宜カルニチンを補います。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[5] 三頭酵素(TFP)欠損症/長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(LCHAD)欠損症
 1)原因:ミトコンドリア内での脂肪酸β酸化において、長鎖の3-ヒドロキシ脂肪酸(3-ヒドロキシアシルCoA)を処理する酵素群[長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素など]の遺伝子変異が原因です。長鎖3-ヒドロキシアシルカルニチンが増加します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:長鎖3-ヒドロキシアシルカルニチン(C16-OH、C18-OH)の上昇で判定。 酵素活性測定、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約160万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:新生児期から乳幼児期にかけて、空腹時、あるいは感染症罹患時などに低ケトン性低血糖症や高アンモニア血症により嘔吐、意識障害や痙攣などを繰り返し、脳障害や突然死を来します。心筋や骨格筋の障害も見られます。早期治療により脳障害や突然死を防ぐことが出来ます。心筋障害が急速に進行する重症型では、治療効果が充分でない場合があります。骨格筋症状としては、筋力低下や筋痛といった症状、発作的に筋組織が崩壊する横紋筋融解症を繰り返します。末梢神経障害や網膜障害を示す患者もいます。患児を妊娠中の母親に特有の肝障害症候群(HELLP症候群)を来すことが知られています。
 5)治療:哺乳や食事の間隔を長く開けないようにします。夜間の低血糖を防ぐ目的で、生コーンスターチを食べさせることもあります。食事中の脂肪の割合を減らし、代わりに中鎖脂肪酸を含む脂肪を加えます。血液中の遊離カルニチンが減少している場合は、適宜カルニチンを補います。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[6] 中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症
 1)原因:ミトコンドリア内での脂肪酸β酸化において、中鎖の脂肪酸(アシルCoA)を処理する酵素[中鎖アシルCoA脱水素酵素]の遺伝子変異が原因です。中鎖アシルカルニチンが増加します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:中鎖アシルカルニチン(C8)の上昇で判定。 酵素活性測定、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約10万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:新生児期から乳幼児期にかけて、空腹時、あるいは感染症罹患時などに低ケトン性低血糖症や高アンモニア血症により嘔吐、意識障害や痙攣などを繰り返し、脳障害や突然死を来します。無症状のまま成人する患者もいます。早期治療により脳障害や突然死を防ぐことが出来ます。
 5)治療:哺乳や食事の間隔を長く開けないようにします。夜間の低血糖を防ぐ目的で、生コーンスターチを食べさせることもあります。食事中の脂肪の割合を減らします。血液中の遊離カルニチンが減少している場合は、適宜カルニチンを補います。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[7]全身性カルニチン欠乏症(カルニチントランスポータ異常症)
 1)原因:細胞膜において、カルニチンを輸送する蛋白[有機陽イオントランスポータ(organic cation transporter)-2]の遺伝子変異が原因です。遊離カルニチンが減少します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:遊離カルニチン(C0)の低下で判定。 尿中カルニチン排泄率や遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約26万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:新生児期から乳幼児期にかけて、空腹時、あるいは感染症罹患時などに低ケトン性低血糖症や高アンモニア血症により嘔吐、意識障害や痙攣などを繰り返し、脳障害や突然死を来します。心筋や骨格筋の障害も見られます。早期治療により脳・筋障害や突然死を防ぐことが出来ます。
 5)治療:カルニチンを大量投与(内服)する治療を行います。

[8] グルタル酸血症II型
 1)原因:ミトコンドリアの電子伝達フラビン蛋白(ETF)あるいはETF脱水素酵素の遺伝子変異が原因です。これらの機能不全により、脂肪酸β酸化系酵素など複数の酵素の障害が起こります。短鎖から長鎖のアシルカルニチンやいくつかの有機酸が増加します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:中鎖アシルカルニチン(C8、C10)の上昇で判定。 尿の有機酸分析、酵素活性測定、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約30万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:軽症〜中等症の患児では、乳幼児期にかけて、低血糖症や酸血症、高アンモニア血症により嘔吐、意識障害や痙攣などを繰り返し、脳・筋障害や突然死を来したりします。早期治療により脳・筋障害を改善したり、突然死を防いだりすることが出来ます。重症の患児では、出生時に既に脳奇形や腎奇形が見られていたり、新生児期早期から、呼吸障害や意識障害などの重篤な状態を呈したりし、治療は困難です。
 5)治療:軽症〜中等症の患児では、哺乳や食事の間隔を長く開けないようにします。夜間の低血糖を防ぐ目的で、生コーンスターチを食べさせることもあります。食事中の脂肪や蛋白の割合を減らします。カルニチンやリボフラビン(ビタミンB2)を服用します。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[尿素サイクル異常症]
 たんぱく質(アミノ酸)から作られるアンモニアを体に害のない尿素に変える代謝回路を「尿素サイクル」といいます。これに関係した酵素の障害のため、アンモニアが体にたまり、脳に障害が起こる病気です。食事のたんぱく質を最小限に抑え、アンモニアを解毒する薬などを使って治療します。

[1] シトルリン血症1型(アルギニノコハク酸合成酵素欠損症)
 1)原因:尿素サイクルにおいて、シトルリンとアスパラギン酸からアルギニノコハク酸を合成する酵素[アルギニノコハク酸合成酵素]の遺伝子変異が原因です。シトルリンが増加します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:シトルリンの上昇で判定。 酵素活性測定、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約26万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:軽症〜中等症患児では、乳幼児期以降の空腹時、あるいは感染症罹患時などに高アンモニア血症による嘔吐、意識障害や痙攣などを繰り返し、脳障害が徐々に進行します。重症患児では、新生児期から著しい高アンモニア血症を呈し、治療効果が充分でない場合があります。
 5)治療:食事のたんぱく質を最小限に抑え、カロリーを充分補給し、アンモニアを解毒する薬を使って治療します。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[2] アルギニノコハク酸尿症(アルギニノコハク酸リアーゼ欠損症)
 1)原因:尿素サイクルにおいて、アルギニノコハク酸をアルギニンとフマル酸に分解する酵素[アルギニノコハク酸リアーゼ]の遺伝子変異が原因です。シトルリンとアルギニノコハク酸が増加し、アルギニンが低下します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:シトルリン上昇や、アルギニノコハク酸上昇で判定。 酵素活性測定、遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約80万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:軽症〜中等症患児では、乳幼児期以降の空腹時、あるいは感染症罹患時などに高アンモニア血症による嘔吐、意識障害や痙攣などを繰り返し、脳障害が徐々に進行します。重症患児では、新生児期から著しい高アンモニア血症を呈し、治療効果が充分でない場合があります。
 5)治療:食事のたんぱく質を最小限に抑え、カロリーを充分補給します。アンモニアを解毒する薬を使って治療します。カゼをひいたりして食事が充分に摂れない時には、ブドウ糖の点滴治療などが必要です。

[その他のアミノ酸代謝異常症]

[1] シトリン欠損症
 1)原因:ミトコンドリア内膜において、アスパラギン酸などを輸送する蛋白[シトリン]の遺伝子変異が原因です。シトルリンを含む複数のアミノ酸やガラクトースなどが増加します。
 2)スクリーニング指標と精密検査:シトルリン上昇に加え、メチオニン、フェニルアラニン、チロシンなどの上昇で判定。 遺伝子解析で診断します。
 3)頻度:タンデムマス・スクリーニングでは、約8万人に1人の頻度で見つかっています。
 4)症状:新生児期から乳児期早期に、胆汁鬱滞性の肝障害(黄疸、低蛋白血症、凝固障害)、ガラクトース血症を呈しますが、多くは対症療法により自然に症状が軽快します。新生児期にアミノ酸やガラクトースの変化が見られるのは、本症患児の1/4程度と考えられています。また思春期以降に、精神神経症状、高シトルリン血症、高アンモニア血症で発症する場合(“シトルリン血症2型”と呼びます)もあります。
 5)治療:新生児期・乳児期の肝障害・高ガラクトース血症に対しては、MCT添加・乳糖除去ミルクの使用、凝固因子やアルブミン投与などが行われ、多くの場合、数ヶ月の経過で自然軽快します。