生命情報医科学講座/分子遺伝学領域

 

1.    領域構成教職員・在職期間

教授

横田 義史

平成129

准教授

黒岡 尚徳

平成158 (平成163月−現職)

助教

森 健太郎

平成204

特命助教

美谷島 杏子

平成2221日〜

 

 

 

2.    研究概要

哺乳動物における増殖分化制御機構

 

       研究概要

本領域の主要な研究テーマは、細胞の分化と増殖の制御機構に関するものである。basic helix-loop-helixbHLH)モチーフを持つ転写因子(例:MyoDなど)は細胞の分化・増殖制御に重要な役割を担っているが、Id (inhibitor of DNAbinding) は、これらの転写因子の機能をタンパク質レベルで抑制するhelix-loop-helix (HLH) 因子である。哺乳動物において4種類同定されているIdId1Id4)は増殖刺激によって早期に発現誘導のかかる遺伝子群に含まれ、種々の癌細胞における高発現が認められ、悪性度と発現レベルの相関も報告されている。また、種々の細胞系列の運命決定や分化制御に深く関わっている。本領域ではId2を中心としてIdが関わる細胞の増殖と分化の連関した制御機構、および、生体応答機構に関する研究をこれまで行っている。

 

       業績年の進捗状況

1Id2欠損マウスにみられる小腸腫瘍
Id2
欠損マウスの回腸中部に1〜数個形成される腫瘍について、増殖制御と細胞分化、および、上皮-間充組織相互作用の観点から解析を進めている。また、Id2欠損マウス胎仔小腸での遺伝子発現変化を調べるため、胎生13日目の野生型およびId2欠損マウスの胎仔腸管の中央約1/3の領域(Id2欠損マウスで異所性胃組織を素地とした小腸腫瘍の好発領域)由来のmRNAを元にして、DNAマイクロアレイによる遺伝子発現プロファイリングも行った(森)。その結果、野生型のマウス胎仔腸管に比べて、Id2欠損マウス胎仔腸管で発現が3倍以上増加している11遺伝子、1/3以下に減少している17遺伝子を同定した。発現が亢進していた遺伝子のうち2つは同じファミリーに属し、いずれも形態形成に関わることから、細胞と個体レベルの両方で機能解析を展開している。また、SAGE法の変法を用いた遺伝子発現解析も行っている。一方、APC欠損マウスはヒト家族性大腸腺腫症のモデルマウスであるが、Id2APCの関係を明らかにするためId2APCの複合遺伝子欠損マウスを作成し、それぞれの腸管の病態がどのように影響を受けるか検討している(森、瀋)。
2
BMPによるId遺伝子の発現制御
筋芽細胞を用いてBMPによるId2遺伝子発現制御機構について解析し、転写開始点の上流約3.0kbにある267bp BMP応答領域をレポーターアッセイにより同定した。この領域にはSmad結合配列として知られるGGCGCC配列が2つ、GTCT配列が1つ含まれていた。このうち3’側のGGCGCC配列はGTCT配列と典型的なBMP応答配列GGCGCC-N5-GTCTを形成していた。一方、5’側のGGCGCC配列はCGCC配列と5 bpの間隔をおいて配置しており、この新しいGGCGCC-N5-CGCCモチーフもBMP応答に重要な役割を果たしていることが判明(中廣、黒岡)。
3
)レドックスシグナルによるIdタンパク質の活性変換
Id
は転写だけでなく、タンパク質レベルでも制御されているが、過酸化水素水によりId1Id3タンパク質がホモ多量体を形成することを見いだした。Id3の場合、5つあるシステイン残基すべてが重要であり、またホモ多量体は、還元剤存在下で単量体に戻るため、ジスルフィド結合によるものと考えられた(黒岡)。

 

       特色等

細胞の分化と増殖の制御は、形態形成過程においても、組織の修復過程においても常に連関して制御されている。本領域における研究の特色は、増殖と分化の制御機構の接点に位置する分子であるIdという転写調節因子をツールとして、生体の分化増殖制御機構を明らかにしようする点にある。Idは、細胞の分化・増殖制御に重要な役割を担うbasic helix-loop-helixbHLH)モチーフを持つ転写因子(例:MyoDなど)の機能抑制因子であり、哺乳動物において4種類(Id1Id4)同定されている。いずれのIdも増殖刺激によって早期に発現が誘導される遺伝子であり、種々の癌細胞における高発現が報告されている。この中で特にId2に着目し、in vitroの実験系とId2欠損マウスの病態解析を併用し、生体における機能解析を行っている。

 

       本学の理念との関係

本領域における転写調節因子Id2に関する研究は、遺伝子欠損マウスの病態解析を中心として世界に先駆けて行ってきた独自の知見に基づくものであり、独創的といえる。国内だけでなく各国の研究グループと情報を共有しながら共同研究を実施しており、当該分野の発展に貢献している。大学院生の教育はこうした状況を背景に行われるものであり、高い教育効果があるものと考えられる。以上のことは、世界的水準での教育・研究を推進し、独創的な先端医学研究をおこなうことを目指す本学の理念に合致するものである。

 

 

 

3.    研究実績

区  分

編  数

インパクトファクター (うち原著のみ)

20042009年分

2009年分

20042009年分

2009年分

和文原著論文

1

1

―――――

―――――

英文論文

ファーストオーサー

11

0

46.646 ( 46.646)

0.000 ( 0.000)

コレスポンディングオーサー

13

0

56.908 ( 56.908)

0.000 ( 0.000)

その他

31

2

346.979 ( 342.878)

20.393 ( 20.393)

合計

45

2

406.091 ( 401.990)

20.393 ( 20.393)

 

 

 

(A)      著書・論文等

(1)    英文:論文等

a.原著論文(審査有)

0918001

*A.Tokuriki, +Tomonori Iyoda, +Kayo Inaba, +Koichi Ikuta, +Shinji Fujimoto, *M.Kumakiri, Y.Yokota: Dual role for id2 in chemical carcinogen-induced skin tumorigenesis. Carcinogenesis, 309, 1645-1650, 2009.07, #4.930

 

0918002

+T.Nagatake, +S.Fukuyama, +D-Y.Kim, +K.Goda, +O.Igarashi, +S.Sato, +T.Nochi, Y.Yokota, +A.M.Jetten, +T.Kaisho, +S.Akira, +H.Mimuro, +C.Sasakawa, +Y.Fukui, +J.Kunisawa, +H.Kiyono: Id2-, RORt-, and LTR-independent lymphoid organogenesis in ocular immunity.. J. Exp. Med, 206, 2351-2364, 2009, #15.463

 

(2)    和文:論文等

a.原著論文(審査有)

0918003

横田 義史, *根本 朋幸: モデルマウスを用いた肝線維化誘導過程における転写調節因子Id2の関与. 40回医学研究助成(三井生命厚生事業団), 21-22, 2009

 

 

 

(B)      学会発表等

(1)    国内学会(地域レベル)

a.一般講演(口演)

0918004

+中廣 剛士, 黒岡 尚徳, *佐野 和生, 横田 義史: BMPシグナルによる転写調節因子Id2の遺伝子発現制御機構, 日本生化学会北陸支部 第27回大会, 2009.05, 福井市

 

 

 

 

4.    グラント取得  

(A)      科研費・研究助成金等

区分

研究種目

課 題 名

代表者名

分担者名

期 間

(年度)

金 額

(配分額)

文部科学省科学

研究費補助金

基盤研究(B)(一般)

消化管上皮細胞のId2依存的な増殖分化制御の分子基盤

横田 義史

黒岡 尚徳, 森 健太郎

2009

8,710千円

文部科学省科学

研究費補助金

基盤研究(B)(一般)

メタボリック症候群候補遺伝子の変異・多型は下部尿路症(LUTS)の原因か

*横山 修

横田 義史

2009

2,860千円

文部科学省科学

研究費補助金

基盤研究(C)(一般)

有毒微量元素とレドックスシグナルによる転写調節因子Idの活性変換

黒岡 尚徳

 

2009

1,560千円

文部科学省科学

研究費補助金

基盤研究(C)(一般)

先天性腎尿路異常発生の新たなメカニズム;分化制御因子Id2欠損マウスの解析

*青木 芳隆

横田 義史

2009

1,170千円

学内競争的資金

学長裁量経費・プロジェクト研究

消化管腫瘍の発症機序に関する研究

横田 義史

 

2009

2,000千円

学内競争的資金

その他

血清刺激によるId2遺伝子の発現制御機構

 

 

2009

500千円

 

 

 

5.    その他の研究関連活動

(A)      学会の実績

学会の名称

役職名

氏名

日本生化学会

評議員

横田 義史