間質性肺炎
間質性肺炎の鑑別診断
- 造血幹細胞移植後の間質性肺炎は、病因別にCMV肺炎、カリニ肺炎、CMV以外のウイルス肺炎、特発性間質性肺炎の合併が疑われた場合には、鑑別診断のための速やかな対応が必要である。
- CMV肺炎はきわめて予後不良なため、早期診断、早期治療が重要である。間質性肺炎の合併が疑われた場合には、鑑別判定のための速やかな対応が必要である。
間質性肺炎の臨床的診断基準
下記3項目中、2項目以上を認める場合に臨床的間質性肺炎と診断する。
- 肺炎所見:移植後、2〜3ヶ月目に発熱、乾性咳嗽、呼吸困難などの臨床症状。
- 胸部異常陰影:びまん性網状影、肺炎様雲状影、斑状・線上陰影など多彩。
胸部CT検 査は有用である。
- 動脈血ガス分析異常:PaO2の低下(<
70mmHg), A-aDO2の拡大(>
20mmHg)
間質性肺炎の病因診断
- 間質性肺炎の病因診断には、BAL液や生検肺組織を用いる。
- BAL液を用いたウイルス、細胞学的検査
- CMV肺炎:CMV分離・同定、CMV核内封入体保有細胞の検出、CMV抗原陽性細胞の検出、CMV
DNAの検出などによるCMV感染の証明。
- カリニ肺炎:ニューモシスチス・カリニの証明、PCRによるニューモシスチス・カリニDNAの証明。
- CMV以外のウイルス肺炎:ウイルス分離・同定(アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、水痘−帯状疱疹ウイルス、HHV-6
、RSウイルスなど)。
- 経気管支的肺生検(TBLB)、または開胸肺生検による組織病理学的検査
- CMV肺炎:CMV核内封入体保有細胞の検出。
- カリニ肺炎:ニューモシスチス・カリニの証明。
- 特発性間質性肺炎:間質の肥厚や間質への単核球浸潤が認められ、病因微生物が証明されない。
CMV感染の診断
以下のいずれかの所見が得られたとき、活動的なCMV感染と診断する。
- CMV分離・同定
- CMV抗原陽性多形核白血球の検出(CMV抗原血症)
- Polymerasa chain reaction
(PCR)あるいはreverse
transcription-PCRによるCMV・DNA
またはRNAの検出
- 細胞・組織病理学的にCMV感染細胞の証明
なお、血清学的な抗CMV抗体の検出は、造血幹細胞移植における活動的なCMV感染の診断法として有用性が高い。
CMV感染症の臨床像
CMV感染症の好発時期は、移植後、3〜12週である。
CMVはさまざまな臓器を標的としうるため、CMV感染症の症候は多彩である。
- CMV感染症の症状
CMV感染症の症状には、発熱(38℃以上)、倦怠感、関節痛、筋肉痛などの全身症状の他に、CMVの侵襲部位によって、乾性咳嗽・呼吸困難(CMV肺炎)、悪心・嘔吐・腹痛・下痢・下血(CMV腸炎、膵炎)、視力低下(CMV網膜炎)、皮膚潰瘍などの局所症状がある。
- CMV感染症の検査所見
CMV感染症の検査所見には、白血球減少、血小板減少、異型リンパ球の出現、低蛋白血症などの全身所見の他に、CMVの侵襲部位によって、胸部異常(間質性)陰影・低酸素血(CMV肺炎)、眼底出血(CMV網膜炎)、肝機能異常(CMV肝炎)、などの局所所見がある。
CMV感染症の診断
- CMV感染症の診断
CMV感染症は、侵襲部位あるいは臓器に由来する症候に、侵襲部位あるいは臓器でCMV感染が証明された場合に診断する。
(ただし、CMV網膜炎は特徴的な網膜所見のみでも診断されるため、CMV感染の証明は必須ではない。)
- CMV感染症の各病態の診断
CMV感染症にはCMVの侵襲部位や臓器によって、CMV肺炎、CMV腸炎、CMV網膜炎、肝炎などの病態がある。CMV感染症のなかでも、CMV肺炎、CMV腸炎などは予後不良なため、明記しておくことが望ましい。
- CMV肺炎
発熱、呼吸困難、乾性咳嗽、低酸素血症、また胸部X線写真やCT検査による胸部異常(間質性)陰影などの肺炎所見と、気管支肺胞洗浄(BAL)液や生検肺組織などの肺由来の検体からCMV感染が証明された場合に診断する。
CMV肺炎では、ニューモシスチス・カリニ、細菌、あるいは真菌などによる重複感染がしばしば認められる。他の病原体が同時に検出された場合は、その病原体の性質と基礎疾患の特徴を考慮して診断する。
- CMV腸炎
悪心、嘔吐、腹痛、下血、また内視鏡検査による消化管潰瘍などの臨床所見と、生検組織を用いて核内封入体保有細胞の検出など組織病理学的にCMV感染が証明された場合に診断する。
- CMV肝炎・胆管炎
肝機能異常(AST、ALTの上昇など)と、生検組織を用いて核内封入体保有細胞の検出など組織病理学的にCMV感染が証明され、他のウイルス肝炎が否定された場合に診断する。
- CMV網膜炎
眼底出血などの特徴的な眼科的網膜所見が認められた場合に診断する。
PCRによる前房水や硝子体液からのCMV DNAの検出は、CMV感染の確認に有用である。
- CMV脳炎・横断性髄膜炎・神経障害
脳炎や横断性髄膜炎の臨床所見、または中枢神経症状が認められ、髄液を用いた検査にCMV感染が証明された場合に診断する。
- その他
CMV腎症、CMV膵炎などの病態がある。診断には、侵襲臓器に由来する症候に、侵襲臓器でのCMV感染の証明が必要である。
発熱(不明熱)、倦怠感、白血球減少、血小板減少などの症候とともに、CMV感染がCMV抗原血症検査やPCRなどによって証明される場合に、CMV症候群(CMV
syndrome)と診断されることがある。しかし、診断定義に関しては、コンサンサスが得られておらず、それぞれの症候をCMV関連症候(CMV
assosiated
symptoms)として別々に記載すべきであるとも報告されている。
CMV感染症の治療
- 治療の対象
CMV感染とCMV感染症を区別することが重要で、CMV感染症を治療の対象とする。
- 治療の実際
CMV感染症と診断されれば、ただちにガンシンクロビルを投与する。
CMV感染症の中でも、CMV肺炎の場合にはCMV免疫グロブリンを併用する。
治療効果の判定や治療期間の決定には、臨床所見とCMV抗原血症検査(陽性細胞数)が有用である。
- その他
- CMV肺炎に対する副腎皮質ステロイド大量療法
CMV肺炎に対する副腎皮質ステロイド大量療法の有用性は確立していない。
しかし、抗炎症作用や合併しているGHVDの治療を目的として投与することが多い。
- 腎機能低下時のガンシンクロビル投与
腎機能低下時には、クレアチニン クリアランス(Ccr)値により用量・用法を設定する。
- ガンシンクロビルの副作用
白血球減少、血小板減少、貧血、腎機能低下、神経障害などが報告されている。
- ガンシンクロビル治療抵抗性CMV感染症
要因として、宿主の免疫低下力やガンシンクロビル耐性CMVの出現が考えられる。治療法として、欧米では、ホスカルネットが投与され、有効例が報告されている。(本邦では、AIDS症例のCMV網膜炎にのみ保険診療が承認されている)