福井大学医学部

ゲノム科学・微生物学

研究内容紹介

病原性を有する微生物は、細胞内の様々な宿主因子と相互作用することが知られている。当研究室では、細胞内チロシンキナーゼが真菌・結核菌やウイルス感染の宿主因子として作用することを明らかにしてきた。真菌や結核菌の受容体であるC型レクチンを介するマスト細胞の自然免疫応答には、チロシンキナーゼSykが関与することを報告した。C型レクチンの機能は、樹状細胞やマクロファージで多数の報告があるが、マスト細胞での役割は初めてであり、Sykを介するTh2サイトカインの産生や脱顆粒反応への関与を明らかにした。またチロシンキナーゼAblのshRNAによるノックダウンやAbl特異的阻害薬イマチニブ(慢性骨髄性白血病の原因遺伝子Bcr-Ablの分子標的治療薬)により、HCVのウイルス粒子形成過程が阻害できることを報告した。チロシンキナーゼがHCVなどRNAウイルスの生活環に影響を与えるという報告例は、エボラウイルスのタンパク質VP40のチロシンリン酸化等、ごくわずかに留まっており、HCVについては初の報告である。さらにゲノム編集(CRISPR/Cas9システム)により様々なSTAT分子とIRF9欠損細胞を作成し、STAT1がインターフェロンλによるHCVの複製抑制に不可欠であることを解明した。このように当研究室では、様々な病原体に対する新しい宿主因子やその関連分子の役割について研究を進めている。(定 清直)

主要研究テーマ

病原菌‐宿主相互作用:病原菌に対する免疫応答に関わる宿主因子の研究

非受容体型チロシンキナーゼSykは、B細胞やマスト細胞、マクロファージなどにおける免疫受容体シグナル伝達に必須の分子として知られている。本研究室では、Sykによりチロシンリン酸化を受けるアダプター蛋白質3BP2の機能に着目して研究を行っている。これまでに、3BP2がB細胞やマスト細胞の活性化を担うことを明らかにしてきた(Shuklaほか、2009, Ogiほか、2011, Chiharaほか、2014)。
最近、フランスの研究グループにより、3BP2がマクロファージの貪食に関わることが報告された。しかし、その調節メカニズムは不明である。そこで我々は、ゲノム編集(CRISPR/Cas9システム)による遺伝子ノックアウト技術を用い、IgG受容体を介する貪食と遺伝子発現における3BP2の役割について解析した。その結果、Sykによる3BP2のチロシンリン酸化が、IgG受容体を介するシグナル伝達に重要な事を明らかにした(論文投稿準備中)。また、本研究室のこれまでの研究結果を踏まえ、現在新しい3BP2遺伝子改変マウスの作製を計画している。今後、Sykが3BP2をチロシンリン酸化する生理的意義について、研究を展開していきたい。
この他にも我々は、マスト細胞株が真菌の細胞壁構成成分を認識するC型レクチンDectin-1を発現し、Sykを活性化することを明らかにしている(Kimuraほか、 2014)。最近、結核菌細胞壁構成因子を認識するC型レクチンMincleが、ヒトのマスト細胞に発現する報告がなされたが、その役割は不明である。そこで我々はマスト細胞株を使い、Mincleのシグナル伝達と細胞応答について解析した。その結果、MincleがIgE受容体β鎖と複合体を形成することを新たに見出した。また、MincleがSykの活性化を介してPLCγ2やERK、NFATの活性化を調節する事を明らかにした。また、Mincleが炎症性サイトカインを誘導するだけではなく、マスト細胞の脱顆粒を誘導する可能性を見出した。遊離したヒスタミンは産生されたサイトカインと協調して炎症反応を調節すると考えられた(Honjohほか、2017)。
このような研究を通してSykが関与する新たなシグナル伝達機構を解明し、その調節を可能にすることで、将来的にはSykが関与する様々な疾患の病態の理解や治療法の確立に役立てたいと考えている(千原一泰)。

ウイルス-宿主相互作用:C型肝炎ウイルスの増殖に影響する宿主因子に関する研究

偏性細胞内寄生体であるウイルスの増殖は様々な宿主因子に影響を受ける。本研究室では、肝炎・肝硬変・肝細胞癌の病原体であるC型肝炎ウイルスを研究対象とし、このウイルスの培養肝細胞での増殖に影響する宿主因子の同定等を行っている。
ウイルス感染に対し、宿主はインターフェロン(IFN)を中心とした自然免疫応答で対抗する。三種類あるIFNのうち特に抗ウイルス作用が強いのはI型とIII型のIFNである。肝細胞はどちらのIFNにも応答可能で、応答した肝細胞ではC型肝炎ウイルスの増殖が抑制される。これまでの知見によると、両IFNの細胞内シグナル伝達機構は同じであり、STAT1、STAT2、IRF9蛋白質からなるISGF3が両IFN刺激の主要なシグナル伝達因子且つ転写活性化因子であると考えられている。このことを再検討する目的で、我々は、Crispr/CAS9システムを利用した遺伝子ノックアウト法によってSTAT1、STAT2、IRF9遺伝子欠損肝細胞株を樹立し、両IFNのシグナル伝達の様子を観察した。その結果、肝細胞にはSTAT1に依存しないI型IFNのシグナル伝達機構があり、実際、この機構によるC型肝炎ウイルスの増殖抑制が見られること、その一方で、III型IFNのシグナル伝達と抗ウイルス作用にはSTAT1が必須であることを明らかにした(Yamauchiほか、2016)。この違いは肝臓における抗ウイルス応答の中で両IFNが果たす役割の違いを反映しているのではないかと考えている。
また、我々は、C型肝炎ウイルスの増殖が細胞培養液中のブドウ糖濃度や糖尿病治療薬に感受性を示すことも明らかにしている(Nakashimaほか、2011)。さらに、C型肝炎ウイルスのNS5A蛋白質と会合する宿主蛋白質としてチロシンキナーゼFynやc-Ablを同定した(Nakashimaほか、2012)。c-Ablに関しては、これによるNS5Aのチロシンリン酸化がウイルス粒子形成過程に関わることを明らかにしている(Yamauchiほか、2015)。このため、C型肝炎ウイルスの増殖はc-Abl阻害剤であり慢性骨髄性白血病治療薬であるイマチニブによって抑制される。
以上のような基礎ウイルス学的研究を推し進めることにより、C型肝炎などのウイルス性疾患の病態の理解を深め、また、抗ウイルス療法の開発等に繋げていきたいと考えている(竹内健司)。

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