温故画新~10年を温ねて新しきを画く~
研究
消化器病学における二大感染症であるH. pylori とウイルス肝炎に大きな変遷があった。HP の分子細菌学を柱としていたが、除菌治療の普及によって除菌後胃癌や薬剤性潰瘍の研究に移行した。ウイルス肝炎では薬剤によるHBV 増殖抑制とHCV 排除が可能となり、焦点はHBV の鋳型であるccc DNA の制御に移った。AMED研究班長を二期担当しつつ、cccDNA 排除戦略や再活性化の機序を模索した。また多くの消化器癌を対象とする中で、肝癌や胃癌の発癌・転移モデル、患者組織の次世代シーケンサ解析や蛍光多重免疫染色、血中循環腫瘍細胞の研究を展開した。先進医療をめざした樹状細胞免疫治療についても実施した。厚労科研事業では自己免疫性肝炎診療ガイドラインを分担した。
神経学領域では豊富な症例数を生かして、Mayo Clinic Jacksonville 等との共同研究を含めた基礎・臨床両面からアプローチした。超高齢社会に伴った神経変性疾患の増加を見据えて、タウ細胞モデルによる病態解明とROCK 阻害薬等の薬効評価、酸化ストレスのPET 脳機能イメージング、アミロイドβの重合阻害機序に注力した。自己免疫性橋本脳症ではプロテオーム解析からの抗NAE 抗体診断が全国から注目された。脳卒中では後遺症のBMI 研究、疫学研究では葉酸欠乏症に伴う認知機能低下への補充療法を検討した。
10 年間の科研費取得は代表33 件(基盤B3 件、C16 件、新学術1 件、挑萌3 件、若B10 件)であった。
教育
医学生への講義は各教員が様々な工夫を凝らし、臨床実習では参加型を重視した。BSL でのF.CESS による症例提示や廻診に加えて、検査手技体験や英文抄読などを時間効率的に組み入れた。指導体制も学生-研修医-指導医の屋根瓦式として相互向上に努めた。COVID-19 感染症を契機にオンライン授業を導入した。中本安成が臨床教育研修センター長・副病院長の際には福井大学として初めて初期研修医枠の65%充足目標を達成し、2018 年には新専門医制度;内科専門医プログラムの立上げに携わった。卒後教育として北陸認知症プロフェッショナル医養成プランに参画した。学会では、第二代栗山勝教授が2011 年に第29 回日本神経治療学会学術集会を福井市で主宰した。中本は日本消化器病学会の理事、支部長、内科学会の支部長を務め、2016 年に肝炎研究財団市民公開講座を初めて福井県で主宰し、2017-2018 年消化器病学会総会ポストグラデュエイトコースを開催した。2019 医学会総会プレイベント福井県では1,042 名の参加者を集めた。
臨床・診療
神経内科から脳神経内科へと名称変更があり、消化器内科とともに内科学(2)分野が担当する入外患者数は常に附属病院内トップクラスを維持した。また内科学会での診療レベルの指標となる剖検数についても同様であった。外来診療では、2011 年にもの忘れ外来を開設し、2018 年には放射線科との協力で陽子線外来を開始した。消化器診療においては、上下部消化管ESD治療(Jet B 含)の適応拡大、ダブルバルーン内視鏡の導入、免疫チェックポイント阻害薬、肝癌のRFA、TACE や化学・分子標的治療、高度な胆道系内視鏡治療等の増加がめだった。脳神経診療では、脳卒中地域連携パスが国のモデルケースとして注目され、変性疾患とともに紹介患者数の増加に結びついた。HAL 医療用下肢タイプの導入も行われた。診療全般にわたり教室員が一丸となって効率化への努力を続けている。
社会貢献・グローバル
開講32年目の2013年に第二内科同窓会が発足した。同年に寄附講座・地域高度医療推進講座の設置に伴い、准教授を新設した。また教室から、福井県立大学教授、仁愛大学教授、福井医療大学教授を輩出し、公的な公立丹南病院、済生会京都府病院、越前町国民健康保険織田病院の病院長や福井県内科医会会長に着任した。
今後の展望,これからの10年
これまでの10 年が第三代中本の教授任期前半にあたり、これからの10 年が任期後半である。本稿の成果を基盤として、学際的なビッグデータやAI 技術、先進的なゲノム操作や再生医療のテクノロジーを駆使する研究、グローバルな医学生教育や新制度での専門医育成、地域リーダーとしての診療実績に努めたい。
2020年8月1日(文責:中本安成)