放射線を出して他の種類の原子核にひとりでに変わるアイソトープ(同位元素)をラジオアイソトープ(放射性同位元素)という。
アイソトープの中には、圧力、温度、化学的処理など外部より加えられた条件に関係なく、その原子核が独りでに放射線を出して他の種類の原子核に変わるものがある。原子核が放射線を出して他の種類の原子核に変わる性質を放射能といい、その現象を壊変あるいは崩壊という。壊変にさいしてアルファ線、ベータ線、ガンマ線などの放射線がでる。
放射線とは何か
1.身近にある放射線、宇宙の放射線、いろいろな放射線の説明(その1)
放射線って、少し怖いような、でも、病気になったときのX線(レントゲン)のように、とっても役に立ちそうな・・・私たちが1年間に浴びる自然放射線の量の平均は約2.4ミリシーベルト(世界平均)です。
その内訳は、
- 空気中にあるラドンという放射性物質から1.2ミリシーベルト
- 宇宙からやってくる宇宙放射線による被ばく量が0.4ミリシールト
- 地面から約0.5ミリシーベルト、食べ物から約0.3ミリシーベルト
様々な放射線源からの放射線被ばく線量
放射線を放出する能力を「放射能」といい、放射能をもった物質を「放射性物質」いいます。放射線には「アルファ線」「ベータ線」「ガンマ線」などがあります。放射線が組織などに与えるエネルギーをグレイ(Gy)という単位で表します。また、その人体への影響を表す単位としてシーベルト(Sv)が使われます。
シーベルト=グレイ×放射線荷重係数 「ミリシーベルト(mSv)」は、[シーベルト(Sv)]の1/1000のことです。
2.身近にある放射線、宇宙の放射線、いろいろな放射線の説明(その2)
私たちが普通に生活している場合に浴びる放射線は、おもに、ラドン、宇宙線、地殻、食物から来ています。環境放射線の調査を行っている中国の高ラドン濃度地域
ラドンというのは、地中にあるラジウムという天然放射性物質からでてくる放射性の気体ですが、空気中で壊れて(崩壊)、さまざまな、放射性物質になります。濃度が高いと、吸入されて肺がんになることも心配されますが、日本のように換気の良い家屋で暮らしている場合はほとんど心配ありません。
ラドン研究グループが、日本だけでなく世界各地のラドン濃度を測定したり、実際に培養細胞にラドンを曝露しその影響を研究しています。
3.身近にある放射線、宇宙の放射線、いろいろな放射線の説明(その3)
宇宙からも放射線がやってきます。けれど、地表近くの空気などで弱められて、私たちの体にはほとんど届きません。けれど、宇宙へいくと宇宙放射線を被ばくしますし、空のうえ高くを飛行するジェット機に乗っても地上にいるより多く放射線を被ばくします。
放医研放射線安全研究センターでは、宇宙旅行や航空機の搭乗による放射線被ばくについて調査や研究を進めています。
放射線の種類と量
1.放射線と放射能のちがい
放射線
放射線とは「波長が短い電磁波」及ぴ「高速で動く粒子」のことを言います。
放射能
- 放射線を出す能力 (文例:この鉱石は「放射能」が高い)
- 放射線を出す元素及び物質 (文例:事故で「放射能」が漏れる
同じ「浴びる」でも・・・・・・
2.放射線の単位は何かな?
放射線の単位
放射能:ベクレル(Bq) | 放射性同位元素が1秒間に壊れる数(放射性物質の量も表します) |
---|---|
電子ボルト(eV) | 1本1本の「放射線」がもつエネルギー |
照射線量:クーロン毎キログラム(C/kg) | 放射線のもつエネルギーを空気のイオン化する能力で示したもの (X線、γ線のみ使用) |
吸収線量:グレイ(Gy) | ある物質によって吸収された放射線のエネルギー |
等価線量or実効線量:シーベルト(Sv) | 放射線の照射による人体への影響を表わす |
3.放射線は何でも通りぬけるの?
放射線の透過能力
放射線の特徴として物質を通り抜ける性質がありますが、どれほど通り抜けられるかは放射線の種類とエネルギー等によって違います。
4.放射線の種類ごとの強さ
放射線荷重係数
放射線荷重係数とは、「放射線の種類や放射線のエネルギーによる「生物学的効果の違い」を補正するための係数」です。(大きい程威力があるということ)
放射線の体への影響
ここでは、放射線が人の健康にどのような影響を及ぼすかについてご説明します。詳しくお知りになりたい方には、放射線安全研究センターの研究グループ・プロジェクトの研究内容にリンクするようになっていますので、そちらもご覧ください。
1.放射線の体への影響(その1)
私たちは、日常の生活の中で様々な放射線源から放射線被ばく(放射線を浴びること)を受けています。その種類と量は、以下の図のようになっています。
2.放射線の体への影響(その2)
私たちは日常の生活の中で浴びているような量の放射線は、人の健康に悪い影響を及ぼすことは、ほとんどないと考えられています。しかし、どの程度になると害があるか、他の環境有害物質と合わさったときはどうか、子孫への影響はどうか、など、まだ、まだ、明らかにするべきことはたくさんあり研究が進められています。
放射線が体にあたると、直接に、あるいは、原子や分子の「電離」によって、体をつくっている分子が変化します。これが放射線影響の出発点となります。このような変化の中でも、安定な酸素分子が「電離」し化学変化を起こしやすい活性酸素ができる変化は、健康への影響として重要です。当センターの「レドックス制御研究グループ」は、活性酸素の発生、それに伴う酸化還元反応などの、レドックス制御反応について詳しく研究しています。
このように放射線によって体を構成しているいろいろな成分や部品(たんぱく質、脂肪、核酸など)が化学変化を受けると、体はそれを修理しようとして様々な反応が起こります。そのような反応を引き起こすもとは「遺伝子の発現」です。
3.放射線の体への影響(その3)
事故などで多量の放射線をあびたとき、あるいは、放射線によるガンの治療でガンの病巣以外の部分が多量の放射線をあびるとき、その放射線被ばく量は、私たちが日常の生活の中であびているような量にくらべ、けたちがいに大きいものです。
その様な多量の放射線をあびると、体には様々な障害が発生します。これを放射線障害と呼び、以下の表のように分類することができます。
放射線障害の種類や症状、発症のメカニズム、治療方法などについて研究を行っています。
種類 | 症状 | ||
---|---|---|---|
身体的影響 | 早期障害 | 全身 局所 |
急性放射線障害 放射線皮膚炎 |
晩発障害 | 全身 局所 |
ガン、寿命短縮 白内障、潰瘍 |
|
胎児障害 | 流産、奇形、発達障害(重度精神遅滞) | ||
遺伝的影響 | 突然変異、遺伝病 |
4.放射線の体への影響(その4)

X線撮影は外部被ばく

放射性物質を体に取り込むことで起こる内部被ばく
放射線をあびる(被ばくする)場合には、2つの形式があります。すなわち、からだの外から放射線をあびる場合と、放射線を出す物質(放射性物質)をからだの中に取り込むことによりからだの内部から放射線をあびる場合です。前者を放射線の外部被ばく、後者を内部被ばくと呼びます。
病院でX線写真(レントゲン)を取るときにはわずかの放射線をあびますが、これはからだの外から放射線をあびるので、外部被ばくであり、X線を短時間あびますが、撮影が終わると、放射線はなくなります。
一方、からだの中に放射線を出す物質を取り込むと、その物質がなくなるまで、からだの組織が放射線を浴びつづけることになります。このような内部被ばくで特に危険性が高いと考えられているのが、プルトニウムによる内部被ばくです。プルトニウムは、長い間放射線を出し続ける性質があり、また、体からも容易に排泄されません。このため、体の一部に長期間留まり、その付近の細胞は長期にわたって放射線をあびるため、ガンなどの放射線障害が発生します。
放射線の利用
放射線はいろいろなことに利用されています。放射線の利用についてご説明いたします。
放射線のいろいろな利用

出典:「知っていますか?放射線の利用」岩崎民子著
食品の保存
食品に放射線を照射すると、長持ちするということは20世紀初頭にはわかっており、第2次世界大戦以降に本格的に研究がはじめられ、日本でも昭和30年ごろから研究がはじめられました。照射した食品を食べて健康に影響がないかということがもっとも心配されますが、日本をはじめ各国や国際機関でも詳しく研究され、有意な悪影響は認められていません。今日本で照射が認められている食品はじゃがいもで、照射することで、発芽をおくらせて保存期間を延ばしています。
害虫駆除
害虫駆除といえば殺虫剤を使うことが真っ先に思い浮かぶでしょう。しかし、化学合成殺虫剤は高い毒性があるため、人間や家畜にも害を及ぼします。さらに自然界では殺虫剤散布により、益虫も死んでしまい、かえって害虫が増えるという事態もおきています。そこで、放射線を使ってオスを不妊化させて害虫根絶しようという方法があります。
品質改良
放射線を細胞に照射し生物の持っている遺伝子を変化させ、突然変異でおきた劣性遺伝子を利用して、新しい品種を得ることが出来ます。
この方法で有名になったものに、米の「レイメイ(農林177号)」があります。米のほかにも大豆、ナシ、などがあります。また、シバは冬になると地上部が茶色に枯れてしまいますが、「ウィンターフィールド」という、寒冷期でも緑を保つことの出来る常緑性品種を作り出しました。
X線検査
「レントゲン」という言葉を知らない人はいないでしょう。レントゲンというのはX線を発見した人の名前なのです。健康診断時に行われる肺のレントゲン、胃のレントゲンなどが、X線検査というもので、病気の早期発見に大変役立っています。
各種病気の診断、ガンの治療
X線とコンピューターを用いて人体の輪切りの画像(断層像)を撮るCT装置、病巣がガンかどうかの確認や移転の有無確認、治療後の効果を見るためのPET検査などがあります。
半導体加工
半導体とは電子部品であるICのことを意味して使われることが多くなっています。私たちの身の回りの電気製品にはみな半導体が使われています。放射線は半導体を作るのに欠かせない手段であり、非常にたくさんのその利用価値の高さはいうまでもありません。
厚みの測定、科学分析・各種測定
製鉄工程の中で、鉄板の形が出来てくるとその厚さを計る必要があります。セシウムのガンマ線のエネルギーだと10~100ミリメートルの厚い鋼板を通過することが出来るのでこの種の測定に向いています。また、トンネルを掘るときにも、両側から掘り進んだ2本のトンネルが、ドッキングするための位置合わせに、放射線を用いた測量技術が利用されています。
タイヤ加工、プラスチックなどの性質改良、化合物の合成
私たちの一番身近な乗り物であるクルマも、あらゆる目に見えないところに放射線が使われています。特にタイヤです。わが国のクルマのタイヤのほとんどが、放射線を照射して弾性のある強いタイヤを作っています。このようにして、プラスチックなども放射線を照射することで、品質の改良を行っています。
非破壊検査、溶接検査
造船所で溶接個所の非破壊検査のためイリジウム192を使用しています。イリジウムから出るガンマ線で溶接個所の透過写真を作り、正しく溶接出来ているかを検査しています。
国立行政法人放射線医学総合研究所より参照
http://www.nirs.go.jp/qa/html/index.html