福井医科大学では、設立以来放射線の平和利用、特に医学利用の進展を目指し、高エネルギー医学研究センター(以下、高エネ研)を中心に臨床医療のみならず基礎医学研究分野において高エネルギー電磁波を用いる先端的画像法の有用性を明らかにしてきた。その成果は、脳可塑性研究、ガン細胞の特性研究から広くFDG−PETの保険適用にまで広がっている。
本拠点形成における画像化研究の具体的テーマは、「細胞の増殖・分化とその異常としてのがん化」、「発達と老化を含む脳機能」、「生体内情報伝達」とする。分子生物学、生化学、病理学、解剖学、内科学、外科学など基礎・臨床各研究分野に加えて工学、薬学(化学)における関連研究をCOEに結集させ、これまでの画像医学研究にかかる実績と基盤設備を発展的に活用する。事業推進担当者ならびに公募若手研究者・大学院学生の個々の研究テーマと研究の進捗状況に応じてCOE運営委員会が「基礎技術の臨床研究への展開」、「臨床技術の基礎研究への展開」、「基礎研究と臨床研究との対比」、「基礎研究と臨床研究との連携」の4つの研究形態に整理・統合し、各研究者間の結合・交流を行う。ミクロレベルからのポストゲノム研究とマクロレベルからの画像医学とを統合することにより得られる独自の研究成果を世界に発信するとともに、医療福祉への貢献を目指す。
(1) 画像化分子プローブの評価研究(基礎技術の臨床研究への展開)
- 既存の分子プローブ・技術によって得られるがん臨床画像と、基礎医学的検討により得られる遺伝子発現レベルでの疾患理解とを比較することにより、臨床診断情報の再評価を行う。特に細胞増殖に関わる遺伝子発現と、代謝、増殖、低酸素などを画像化する薬剤集積とを個別に比較することにより、がん悪性度と増殖に関する定量的診断法へと展開する。
- ステロイド、ニューロレセプター等の生体内情報伝達分子・受容体系を画像化する分子プローブの動態と体内情報伝達機能異常との関連を臨床像、基礎医学的検討から比較し、疾患理解と診断精度向上を目指す。
(2) 医用画像法を用いる基礎医学研究(臨床技術の基礎研究への展開)
- 動物PET(既設)、小動物PET(リーディングプロジェクトにて設置予定)、3T-MRI(既設)、新鮮組織切片画像法(dPAT,既設)を用いて、遺伝子改変、ノックアウト等による疾患モデル動物における血流、代謝、生化学機能評価を行い、遺伝子の機能解析に新たな情報を加える。
- アレルギー、免疫反応組織における血流、代謝等の情報を医用画像法にて収集し、分子生物学的解析結果と比較検討することにより、免疫反応に新しい理解を加える。
(3) 疾患モデル動物と臨床像との対比研究(基礎研究と臨床研究の対比)
- 特定の遺伝子(群)発現異常が原因と考えられる疾患について、遺伝子操作動物の作製を行う。これを分子プローブによる画像化検討によって臨床像と比較し、疾患モデル動物としての利点、問題点を明らかにする。疾患理解と遺伝子機能解析の両視点から考察を行う。
- タンパク、細胞、組織レベルにおける疾患モデルと生体における疾患モデルの相同性、相違性を分子プローブ挙動の観点から比較検討する。
(4) 新概念に基づくイメージングに関する研究(基礎研究と臨床研究との連携)
- 基礎研究により提案された画像化標的分子に適した分子プローブを、構造と標識法の観点からコンピュータ解析その他の手法を用いて設計する。特に、がん、痴呆の超早期診断を可能とする薬剤について積極的に研究を進める。
- 分子設計図に基づき、標識合成、製剤化を経て、前臨床検討を行う。
- 疾患モデル動物を用いた新しいイメージング技術の開発を経て、診断法の提案を行う。
- 健常人による検討を経て、患者における診断意義の解明を行う。
これらとは別に、各分野における新規画像化標的分子の探索研究を基礎、臨床の両面から行う。
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