福井大学医学部

分子生体情報学(生化学2)

 精神・神経障害は、発達障害と疾患発症に共通する基盤をもつことから、近年、胎児期リスクへの対応が臨床的にも注目されている。これまでに私たちは、胎児期の神経細胞移動障害に起因した脳形成不全による重篤な発達障害の一つである滑脳症の発症メカニズムの分子レベルでの解明と治療薬の開発の両側面から治療戦略に取り組んできた。最近私たちは、精神・神経疾患とimportin α/β、低分子量GTPase Ranおよびその活性制御因子などの核—細胞質間物質輸送を制御する因子(以下、核移行関連因子)との関係が指摘されていることに着目している。核移行関連因子は、個体発生、臓器機能、細胞分化、細胞老化、代謝などの様々な生命現象あるいは機能との密接な関係が指摘されている。近年、統合失調症やうつ病などの精神神経疾患の患者の脳で、核移行関連因子の発現量の低下、遺伝子の僅かな変異である一塩基多型(SNPs)が見つかっているが、それらの機能的役割は明らかではない。また一方で、統合失調症などの精神・神経疾患に於いて、神経細胞移動や軸索伸長の異常との関連が指摘されているが、その疾患発症に至る分子機構は明らかではない。私たちは、細胞内ロジスティクス(細胞内物質輸送)と神経細胞遊走をキーワードに核移行関連因子の機能不全により精神・神経疾患の発症に至る分子メカニズムを明らかにすることを目指す。また、私たちは、これまでに疾患発症に至る分子メカニズム解明の為に、直接分子を観察・解析する必要性から、蛍光分子イメージングをはじめ様々な先端技術を精力的に導入してきた。今後も、研究目的達成の為に、分子・細胞から組織・個体に至るまで、先端技術を積極的に導入あるいは開発し、強力に研究を推進させたい。
 現在私たちは、「細胞内ロジスティクス(細胞内物質輸送)」と「神経細胞移動」をキーワードに、以下のような研究テーマに取り組んでいます。
① 核移行因子KPNA1/ importin α5の神経細胞内における新規機能の解明.
② 微小管モーター蛋白質・細胞質ダイニンによる輸送機能制御メカニズムの解明.
③ KPNA1/ importin α5の細胞内ロジスティクスと精神・発達障害発症メカニズムの解明.
④ 膠芽腫浸潤におけるKPNAsの機能的役割の解明.
⑤ エストロゲン受容体の核-細胞質間シャトリングによる機能制御メカニズムの解明.

分子生体情報学(生化学2)研究室

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