白血病を中心とした血液がんを薬物療法等により治癒させるための分子生物学より臨床レベルにいたる総合的研究,日和見感染・リケッチア・HIV感染症の病態と治療,痛風・高尿酸血症の基礎的・臨床的検討など広く行っている。
主要研究テーマ
血液・腫瘍グループ
1. 研究テーマ
抗白血病薬の作用機序・耐性機序の解明と薬物動態の検討
2.特色
がんの分子病態に基づく至適薬物療法の確立を研究の中心テーマとする。臨床においては急性白血病などの造血器悪性腫瘍に対する薬物療法をメインテーマとしている。JALSG(Japan Adult Leukemia Study Group)、JCOG (Japan Clinical Oncology Group)、W-JHS (West Japan Hematology Study Group)などの全国組織、多施設にて共同治療研究に参加している。数多くの治験を実施している。基礎的研究として白血病細胞の分子病態の解明、抗腫瘍薬の作用機構の解明、耐性克服、支持療法の基礎レベルでの研究に取り組んでいる。
3. 研究概要
研究テーマについて大別すると、
1)がん細胞の分子病態の解明、2)抗がん薬に対する耐性機構の分子薬理学的解明とその克服、3)分子標的治療薬・抗体医薬についての研究、4)抗がん薬の細胞内薬理動態の解明、5)がん微小環境と抗腫瘍効果、6)TLSや制吐療法等支持療法の検討、7)キサンチンオキシドリダクターゼ阻害薬と薬物相互作用、に分類できる。現在、AMLにおけるCPX351やCD33抗体の基礎的検討、MDS症例における5番・7番染色体異常の研究、末梢性T細胞性リンパ腫に対する新規治療薬耐性克服、ALLに対する抗体医薬の至適投与、がんのアポトーシスの解明の基礎検討等が行われている。更に、MTAP欠損株への特異的併用療法の検討、TLSの共同研究、尿酸生成抑制薬の薬理相互作用といった多彩な研究が展開されている。臨床的には、多施設共同の臨床研究に多数参加しており、特にJALSGにおいては再発難治AMLや支持療法において中心的な役割も担っている。白血病、リンパ腫に対する多くの治験に参加している。更に高エネルギー医学研究センターとの共同研究を進めている。
4. 業績年の進歩状況
チロシンキナーゼ阻害薬導入後の染色体異常の解析や、MTAP欠損細胞での抗腫瘍効果増強の基礎検討の結果が発表された。
感染症グループ
1.研究テーマ
コンプロマイズドホストに合併する感染症の診断と治療/感染症重症化のメカニズム解明/新興リケッチア感染症救命のための新治療法開発
2. 特色
造血器疾患患者やエイズ患者は、宿主の免疫機能不全を伴い、易感染性の状態となる。これらの症例に合併する感染症は、起炎菌ならびに感染病巣の同定が困難であり、治療においても難渋することが多い。現在進めている血液を用いたマイクロアレイによる敗血症診断は迅速性を有し、今後一層の臨床応用が期待される。感染症に対して、優れた有効性を示すテトラサイクリン系、マクロライド系フルオロキノロン系抗菌薬、およびキャンディン系抗真菌薬などの抗微生物薬の作用機序に、抗微生物活性以外のサイトカイン産生修飾活性を明らかにしつつある。マルチプレックスアッセイでは20種以上のサイトカインを同時に測定することが可能で、その結果これまであまり注目されていなかったケモカイン(IL-8, MCP-1, MIP-1α, MIP1-β 等)の動態が、リケッチア感染症制御に重要な役割を担う可能性が示唆された。岩崎らはリケッチア感染症について、これまで厚生労働省の新興・再興感染症科学研究事業の研究班に所属し、全国的共同研究を進めてきた。2009年に組織された日本リケッチア症臨床研究会でも、学振科学研究費や、学内先進医療シーズ研究費の援助を得て、日本紅斑熱に関する全国的調査活動を行っている。
3.研究概要
造血器腫瘍や膠原病に対する抗腫瘍治療および免疫抑制剤治療下など、様々なコンプロマイズドホストに合併する真菌および細菌感染症を中心として、診断と治療の臨床的検討を進めている。中でも病原診断が難しい発熱性好中球減少症(febrile neutropenia)に対する新しい診断法の開発を進めている。また重症感染症では、しばしば全身性炎症反応症候群(SIRS : systemic inflammatory response syndrome)を来すが、この本態はサイトカインの産生に起因する生体の過剰防御反応であることが明らかとなってきており、サイトカイン産生の制御により予後が改善する可能性があると考え、新しい治療法の開発も視野に入れ、検討を行っている。近年、我が国で新興ダニ媒介性感染症である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)と日本紅斑熱の発症による死亡例が多く認められていることから、適切な治療法の確立と疫学調査が急務となっている。
4.業績年の進捗状況
敗血症の診断として、DNAマイクロアレイを用いた血液由来病原体の迅速診断法の有用性が確認され、本法を用いた早期診断により救命できた症例も蓄積された。基礎実験的には、一部の抗菌剤や抗真菌剤が抗菌作用とは別に炎症性サイトカイン(TNF-α, IL-12p40, IFN-γ等)の産生修飾作用を有していることを明らかにした。リケッチア感染症において、テトラサイクリン系薬剤は劇的に効果を示すが、これは本来の抗菌作用のみならずサイトカイン産生修飾による付加的な作用であると推測されており、そのメカニズム解明を実験的に検討してきた。新興リケッチア感染症である日本紅斑熱の病態解明および標準的な治療法の確立が急務であり、当科に事務局を置き、日本リケッチア症臨床研究会を中心として検討を進めている。