形態学的手法を中心とし、生物の構造と機能を明らかにすべく、以下のテーマを中心に研究を進めている。現在取り組んでいる分野は、消化管であり、主に哺乳類の個体での解析を行っている。
主要研究テーマ
消化管運動の形態学的基盤
私たちは消化管運動を担う消化管筋層を構成する細胞群を組織細胞学的・生理学的・分子生物学的に研究している。この研究を通して、正常な消化管運動を担う細胞・分子の働きを明らかにし、また消化管運動障害における病態生理や治療への手掛かりを得ようと考える。現在、筋層における神経分布・平滑筋の機能分子発現・カハール介在細胞や間質性細胞の分布と機能分子発現、炎症時における細胞要素の変化について解析を進めている。
カハール介在細胞の神経筋伝達能に関しては、1)カハール介在細胞には興奮性及び抑制性神経が近接しシナプス様構造を作る、2)興奮性神経伝達物質であるアセチルコリンやサブスタンスPに対する受容体を発現、3)抑制性神経伝達物質である一酸化窒素NOを受容するグアニレートシクラーゼを発現、4)細胞内2次メッセンジャーであるcGMPがNO刺激により産生され、cGMPの標的であるcGMP依存性キナーゼ、フォスフォジエステラーゼが発現する、ことを示し、カハール介在細胞の神経筋伝達における働きを明らかとした。
c-Kitとカハール介在細胞の発生・分化・再生との関連を探る目的でカハール介在細胞を欠損する動物の作製と解析を進め、1)様々なc-Kit遺伝子変異のWミュータントマウスの解析を行い、特有のカハール介在細胞欠損記載、2)薬剤を用い部位特異的にカハール介在細胞を欠損するマウスの作製・解析、3)Wミュータントによる分子発現変化の解析を進めている。
更にカハール介在細胞欠損マウスの解析から、異なる間質細胞(fibroblast-like cells)の存在を確認し解析を進めている。同細胞はKチャネルやグアニレートシクラーゼ、PDGF受容体を発現し、ギャップ結合を有する細胞性ネットワークを形成し、消化管筋層の調節を担う細胞と考えられる。全身の臓器においてもカハール介在細胞類似細胞が見出され、ユビキタスペースメーカーシステムと呼ばれる。カハール介在細胞類似細胞は間質細胞や線維芽細胞と見なされてきたが、生理学的手法により組織調節を司る機能的細胞と考えられるようになってきた。我々は電子顕微鏡を用いることで細胞学的特徴を捉え、特有の免疫化学的性質を解析し新たな細胞群として位置づけるべく研究を進めている。