福井大学医学部

ゲノム科学・微生物学

研究内容

研究の概要

癌ウイルスからチロシンキナーゼの発見、シグナル伝達の研究へ:ラウス肉腫ウイルスが有するがん遺伝子v-Srcとそのチロシンキナーゼの発見は、その後細胞内シグナル伝達の研究へと展開し、正常組織に発現し個体の発生や組織の増殖・分化を司る細胞型チロシンキナーゼの発見へとつながった。
進化上の頂上決戦~なぜヒトは感染症に罹患するのか:当研究室では、病原微生物の感染に対する宿主因子の研究を行っている。ウイルス-宿主相互作用として、C型肝炎ウイルス(HCV)の増殖に影響する宿主因子の研究を推進しており、チロシンキナーゼAbl がHCVの生活環、特にウイルス粒子形成に必要であることを解明した。今後は抗腫瘍薬を用いたウイルス感染制御への展開が期待される。一方、病原菌-宿主相互作用としては、病原菌の感染に対する宿主因子の研究を推進しており、真菌や結核菌の受容体として知られるC型レクチン受容体(CLR)シグナル経路に、アダプタータンパク質3BP2が不可欠であることを解明した。今後はCLRを介する新たな自然免疫シグナルの解明に向けた展開が期待される。


3BP2 DL/DL マウス (Chiharaほか、2022)

主要研究テーマ

我々は、「病原菌と宿主との相互作用」についての研究を推進しており、樹上細胞に発現し、真菌や結核菌の受容体として知られるC型レクチン受容体のデクチン-1を介するシグナル経路において、チロシンキナーゼAbl結合タンパク質の一つであるアダプタータンパク質3BP2Abl-SH3 domain-binding protein-2)が転写因子NF-κBの活性化に関与することを、3BP2遺伝子改変マウス(3BP2DL/DL3BP2KI/KI)を用いて解明し、その細胞内メカニズムとしてCARD9MALT1の関与を明らかにした。

また、ウイルスと宿主との相互作用では、C型肝炎ウイルス(hepatitis C virusHCV)の増殖に影響する宿主因子の研究を推進している。最近我々は、AblHCVの生活環、特にウイルス粒子形成の過程に関与することを、ゲノム編集により作製したAbl欠損培養肝細胞を用いて解明し、現在は様々なチロシンキナーゼ阻害薬による抗ウイルス効果の検証、他のキナーゼの関与の有無の解明へと進んでいる。

病原菌‐宿主相互作用:病原菌に対する免疫応答に関わる宿主因子の研究

AblSH3ドメインに会合するアダプタータンパク質3BP2は、骨破壊を特徴とする遺伝病チェルビズムの原因遺伝子として知られている。本研究室では、3BP2が抗原受容体の刺激に応じてチロシンキナーゼSykによりリン酸化されることに着目し、免疫応答における3BP2の機能を解析してきた。細胞株を使った実験では、3BP2が貪食能の調節に関わることを報告している。さらに3BP2の生理的機能を詳細に明らかにするために、最近CRISPR/Cas9システムを用いて3BP2機能欠損マウス(3BP2 DL/DLマウス)を作製した。このマウスを使った解析から、3BP2が骨髄由来樹状細胞においてデクチン1に誘導されるサイトカインの産生に重要な役割を担うことを見出した。現在、3BP2がデクチン-1を介した遺伝子発現をどのように調節するのかの解析を継続している。

研究の特色:第一研究室ではCLRを介する自然免疫シグナル伝達機構に焦点を当てて、ゲノム編集により作成した遺伝子改変マウス、種々のシグナル伝達分子を欠損させた培養細胞を用いて解析を進めている。また、イムノブロットや免疫沈降、レポーターアッセイ、リアルタイムPCRによる遺伝子発現調節の解析、レンチウイルスを使った再構成実験等を駆使し、新たな感染免疫応答のメカニズムを明らかにしようとしている。(第一研究室)

ウイルス-宿主相互作用:C型肝炎ウイルスの増殖に影響する宿主因子に関する研究

偏性細胞内寄生体であるウイルスは宿主細胞内の様々な高分子を利用して増殖する。一方、宿主細胞側はインターフェロン(IFN)応答や二重鎖RNAdsRNA)応答などの自然免疫応によってウイルス増殖を抑制しようとする。本研究室では、これまで、C型肝炎ウイルス(HCV)と宿主チロシンキナーゼ(TKAblIFNシグナル伝達系との相互作用を明らかにしてきた。TKに関しては、様々な阻害剤が白血病などの治療薬として開発されている。このため、ウイルスがその増殖に当たってTKを利用している場合、TK阻害剤をウイルス性疾患の治療薬として転用する可能性が開けてくる。宿主のIFN応答等に関しては、2023年度、国際共同研究において進展があり、共著論文を発表することができた。

研究の特色:第二研究室では、ヒト肝細胞株でしか増殖できないHCVの研究などを行っている。このヒト肝細胞由来培養細胞株にCRISPR/Cas9法でゲノム編集を施し、ウイルスと宿主因子の相互作用を研究している。(第二研究室)

 


実験室の様子

 

ゲノム科学・微生物学研究室

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